第12話 透子と二人、光士郎の落胆
初めての
次の日、みんなで大きなテーブルを囲んで朝ごはん。
メニューは
真っ白なごはんにえのきのみそ汁、焼きジャケ、納豆にほうれん草のおひたし。
それに冷たいトマトとキュウリが山盛り。
あと面白いのは、香坂さんのおじいちゃんとおばあちゃんだけが、トーストとコーヒーとサラダだったことかな。
ぼくの目の前にも、ベーコンエッグを置いてくれてあった。
食べる量は人並みのぼくだけど、何となく食べすぎてしまった。
でも、食べている間もずっと考えていた。昨日の夢のことを。
(
はっきりと覚えてる。
もちろん、夢は夢。
ただの夢。
でも何だか、あまりにもタイミングがいいと言うか、指示が具体的と言うか、つまり「夢の話だから」でかたづけられないような気がした。
どうして月城先生のことを知っているのか。
それは、夢を見たぼくが知ってるから。
でもなぜ、八神さんなんだろう。
ぼくは八神さんが何か知ってる、なんて思ってないのに。
自室にもどって、ぼくは考える。
今日は特に予定はない。
お盆は明日からだし、月城先生の「
(相談してみよう)
一人で考えていても、きっと何も変わらない。
夢の話なんて笑われるかも知れないけど、笑って終わりなら別にそれでもいい。
ぼくは、八神さんに個別メッセージを送った。
『もし気づいたら返事ください』
ベッドの上でゴロゴロしながら待つこと、五分くらい。
ポンッと、スマホが音を立てた。
『どうしたの?』
『聞いてもらいたいことがあるんだけど』
『いいよ』
ぼくは夢のことを話した。
『――と言うわけなんだ』
『そう』
それだけ返ってきて、そのまま。
くだらなすぎて、怒らせちゃったかも知れない。
『ごめん、ただの夢なのに。それだけだから。じゃね』
『まって。直接話したい。今日はだいじょうぶ?』
『だいじょうぶだけど』
『じゃあ夕方の四時に、公園で』
どういうことだ?
八神さんに、何か心当たりがあるのか?
他人の夢の話に?
でも、ここのところ、ふしぎなことがいろいろ起きてるから、ばかばかしいってひとことだけでは、どうしてもかたづけられない気がする。
八神さんは、いったい何を話すつもりなんだろう。
◇◇◇
午後四時少し前、いつもの公園。
日差しはまだ強いまま。
空も夏っぽい深い青色で、風船みたいな入道雲が見える。
足元からは、じんわりと熱がのぼってくる。
ぼくは木陰のベンチに座って、八神さんを待っていた。
水飲み場の近くで、幼稚園くらいの子たちが走り回ってる。
元気だ。
セミも負けてない。
夜になる前に鳴きためとこうとか思ってるのかな。
でも、夜に鳴くセミもいるって、ぼくは知ってる。
「
後ろから、八神さんの声がした。
ふり返る前に、彼女はぼくのとなりにいつの間にかすべりこんでいた。
「呼び出してごめんね」
「いや、ぼくの方からした話なんだから」
そのまましばらく、ぼくたちはだまって目の前の景色をながめていた。
さっきの幼稚園児たちが、お母さんたちに呼ばれて帰っていく。
カナカナカナ、というセミの鳴き声が混じり始めた。
「私ね、月城先生のこと、知ってるの」
思ったよりも、ぼくはおどろかなかった。
何となく予感していたのかも。
「私が知ってる月城先生は、
小学校の先生は、何年かごとに学校が変わるのは知ってる。
私立から公立へだって、きっとおかしい話じゃない。
「それっていつごろの話なの?」
「いつからかは分からない。でも私が小学三年の時には、いた」
「じゃあ、三年くらい前ってことか」
「そう」
ここでぼくは理解した。
月城先生の住所を、八神さんが何とかできるって言った理由を。
「でも、そのくらいの話ならFINEでもよくない?」
「もちろん、これだけじゃないよ。大事なのは、ここから」
「分かった」
「……私にはね、親せきのお兄ちゃんがいるの。
「うん」
「月城先生はね……そのお兄ちゃんを入院させた張本人」
「…………え?」
ぼくは思わず、八神さんの顔を見た。
「それって、どういうこと?」
「
入院。
(――はっ!)
ぼくの頭の中にあの夜の景色がとつぜん、稲妻のようにひらめいた。
夏祭りの帰り。
一瞬だけこっちを見たあの顔は――月城先生!
(ウソだろ……)
いつの間にか、セミの声が止んでいた。
「八神さん」
かすれた声。
自分のじゃないように思えた。
「もしかして、その従兄の人が入院してるのって、町の方にある総合病院?」
今度は、八神さんがおどろく番だった。
「どうして知ってるの?」
うまく説明できる気がしなかった。
何からどう話せばいいのか。もごもごしてるぼくを見て、
何を思ったのだろう。
八神さんは言った。
「月城先生は、魔法で人をおかしくしている」
◇◇◇
月城達也の正体をさぐる方法を。
自宅を訪れたあの日、どういうわけか何もしないまま帰りたくなった。
それを誰もおかしいと思わなかったことが、今考えるとおかしい。
「やべ、こんな時間だ」
彼は現在、
ガランとした瀧人の自室で、寝転がっていた光士郎は飛び起きた。
今日は週に二回ある、サッカースクールの日なのだ。
クラブチームほどではないが、それなりに本格的な練習メニューで、光士郎もかなり真剣に取り組んでいた。
場所は学校のグラウンド。
夕方からの練習に、自転車ならまだ何とか間に合う。
「行ってきまーす!」
「いってらっしゃい」
瀧人の祖母に温かく送られて、光士郎は自転車をしゃかりきにこぐ。
汗も気にならない。
どうせこれから、もっと汗をかくのだ。
むしろ汗をたっぷりかいた後のシャワーが、何より気持ちいいのだから。
「いつものルートだと厳しいな。ショートカットすっか」
公園を突っ切っていけば、多少は早く着ける。
いつもは人にぶつかるのが嫌で避けていたが、今日は仕方ない。
「……ん?」
もうすぐ公園というところで、光士郎は見慣れた人影に気づいた。
入口から出て行った、二人の後ろ姿。
(瀧人と……八神さん!?)
見間違えるわけがない。
瀧人はもちろんのこと、透子だって夏祭りの時に久しぶりに会ったばかりとは言え、幼稚園からの幼なじみなのだ。
その二人が、連れ立って夕陽に向かって歩いていく。
光士郎の足は止まっていた。
汗が頬をつたい、首筋を流れ、地面を濡らしていく。
「どうして……」
心の想いが、思わず口をついて出る。
しかし聞く者はいない。
いつの間にか二人は、光士郎の視界から消えていた。
それでも彼は、自転車に乗ったままその場を動こうとはしなかった。
◇
その夜、遅刻した上に、練習にまったく集中できなかった光士郎は、コーチからしこたま怒られて、塩をかけた青菜のようにしょぼくれて乾家にもどった。
心配する瀧人の父親や祖父母にはあいまいににごして、彼は早々にシャワーを浴びた。
部屋にもどった光士郎は、お湯では洗い流せないものを何とかしようとスマホを取り出し、FINEで個別メッセージを送った。
相手は――
夕方の公園で見たことを聞かされた芹里菜は、彼以上にショックを受ける。
『香坂、幼稚園を卒業するちょっと前のこと、おぼえてるか?』
『……榊くんと瀧人くんが、大ゲンカしたことだよね?』
『その理由は?』
『よくは知らない。でも、透子ちゃんが瀧人くんを…………好きだったってことは、知ってる』
『今もそうだと思うか?』
『そんなの分かんないよ。でも、今の話だと』
その先を、芹里菜は続けられなかった。
きっと瀧人も、透子のことを……。
『どうしてわたしに、その話をしたの?』
『分かんねえ。誰かにきいてもらいたかったんだと思う』
『そう。わたしも考えてみる』
『分かった。それじゃな』
『うん』
FINEを終えた芹里菜は、ホームステイ先のクラスメイトが使っているベッドに横になり、目をつぶった。そして、決心した。
瀧人への置き手紙を、回収しなければと。
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