【KAC20254】KAC入門に今回のお題をオススメするたった一つの理由。

斜偲泳(ななしの えい)

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 これでノルマの半分は終了だ。

 あとは900字、正確には残り881文字を埋めるだけでいい。

 こんなにチョロいお題はない。

 内容?

 そんな物は気にしなくていい。

 今回のレギュエーションは「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」

 この19文字を冒頭に置く事だけだ。

 それ以外のルールはなにもない。

 昨日食べた夕飯の感想でも、仕事の愚痴でも、100万文字の冒険譚でも、900字以上書けそうな事だったらなんだって書けばよい。

 そんなのインチキだ、KACというイベントを冒涜している。

 そう思うだろうか?

 まぁ、そう思う方もいるだろう。

 作家を自負する者であれば多かれ少なかれ、与えられたテーマに沿った内容にしなければという義務感、与えられたお題を美味しく料理してやろうという野心を刺激されるものである。

 それは別に構わない。

 そんなインチキは書き手のプライドが許さないという方はどうぞ、「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」に繋がる上手いオチ、あっと驚くようなどんでん返し、思わず目頭が熱くなるような面白い話を書くといい。

 そもそもそういった方は言われなくてもそうしているだろうが。

 私が伝えたいのはそういった慣れた書き手にではなく、今までKACなど一度も手を出した事のないような類の方々である。あるいは小説自体一度も書いた事のないような方々だ。

 文章を書く事は難しい。自分なんかにはきっと無理だろう。

 そう思う気持ちは理解出来る。

 実際、面白い文章を書く事は例えようもない程に難しい。

 制約がなくてもそうなのだから、制約があれば余計に難しく感じられるだろう。

 だが、文章を書く事自体は難しくない。

 作家でない方々でも、日々の生活でなにかしらの文章を書いている筈だ。

 例えば仕事の書類、例えば学校のノート、例えばツイッター(今はXと名乗っているらしいが)。

 全く書かないという方でも、頭の中では日々なにかしらの文章を思い浮かべて思考している筈である。

 そういう意味では、言語を使う人族という種は、本質的に皆作家だと言えなくもない。

 そしてあなたはカクヨムというサイトにいる。

 ならば少なくとも、読む事は好きなはずだ。

 あるいは一度くらい、書き手に回ってみたいと思った事があるのではないだろうか。

 そういう方はこの機会に、是非書いてみる事をお勧めする。

 書いてみれば、案外簡単な物だと思うかもしれない。

 もしそうなら、あなたには作家の才能があるようだから、是非書き続けるといい。

 場合によっては、未来の文豪にならないとも限らない。

 大半の人間はやはり難しと感じるのではないだろうか。

 自分の無才を再確認し、書き上げた作品のつまらなさ、駄作っぷりに恥じ入る事だろう。

 だが待って欲しい。

 それは恥ずべきことではない。

 むしろそれこそが書く事が持つ麻薬的な魅了なのだと私は言いたい。

 どんな文章も、ポロリと簡単に生まれて来る事はまずない。

 調子がいい時でも、色々な言い回し、当初予定していなかった展開が頭の中に浮かんできて、どれを採用しようか悩ませられる。

 書き終われば心地よい達成感を味わえるが、同時に酷く不安にもなる。

 そして思うのである。

 次はもっと上手くやれるはずだ。

 次はもっと上手く書いてやるぞと。

 大事なのは初めの一歩である。

 一歩踏み出せば二歩目を踏み出したくなる。

 時々立ち止まってもまたふと歩き出したくなる。

 文章はいつでも我々を暖かく向かい入れてくれる。

 それが書く事の魅力であり、恐ろしさである。

 その入り口として、今回のお題はどうだろうか。

 上手いオチ、あっと驚くようなどんでん返し、思わず目頭が熱くなるような面白い話は慣れた書き手に任せておけばいい。

 正直な話、その手の真っ当な話は掃いて捨てる程投稿されている。

 むしろ、誰もかれもが夢の話を書いていて飽きる程だ。

 それにもしかすると、そういったインチキから始まった話の方が、案外面白くなったりするかもしれない。

 勿論、一作目の出来に満足出来なければ、腕まくりをしてもっともらしい二作目に挑戦したっていい。

 などと語っている間にもう900字を超過した。

 この程度なら自分にも書けそうだ。

 そう思われたなら是非書こう。

 そうすれば、あなたも今日から書き手の仲間入りだ。

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