ぼくは焼かれて役にたつ 〜パンくんの大冒険〜
あると
パンくんの大冒険
朝、パンくんは目を覚ました。
小麦粉と水と塩で作られた生地だったぼくは、昨夜、熱いオーブンで焼かれたばかり。パン屋の棚に並びながら思う。
「ぼくはもう終わりなのかな?」
すると、ひとりの男の子がぼくを手に取った。
「おっ、このフランスパン、ちょうどいい!これ持って行こう!」
カズマくんはお金を払うと、ぼくをリュックにポイッと入れた。どこへ行くのかわからないけれど、どうやら冒険が始まりそうだ!
カズマくんは山へ登り始めた。
ぼくはリュックの中でゴトゴト揺れながら、ちょっとワクワクしていた。
ところが!
カズマくんが転びそうになったとき、思わずぼくを取り出して──
「よし、杖がわりだ!」
ぼくはかたく焼かれていたから、しっかり地面を支えた。
カズマくんは転ばずにすんだ。
「パンなのに杖になるなんて、おまえスゴイな!」
ぼくはちょっと得意げになった。
山の奥へ進むと、木の上で小さなリスが泣いていた。
「どうしたの?」
「木の実をたくさん集めたんだけど、カゴを落としちゃって……」
見ると、カゴは崖の下に引っかかっている。カズマくんは考えた。
「よし、パンを使おう!」
なんと、ぼくのかたい表面にヒモを結び、カゴに向かって投げた!
コツン!見事にカゴの持ち手にひっかかり、リスの木の実は無事に戻ってきた。
「ありがとう」
ぼくは、ちょっと誇らしい気分になった。
山のてっぺんにたどり着くと、焚き火を囲んで旅人たちが集まっていた。みんな、お腹を空かせている。
「うーん、何か食べるものがあればなぁ……」
するとカズマくんが言った。
「あるよ!このパンが!」
ぼくはついに食べられるのか……と覚悟した。でも、カズマくんはただ食べるんじゃなかった。
ぼくに砂糖とバターを塗って、炎の上でじっくり焼きはじめたのだ。
「おお、いい香りがする!」
「これって……ラスクじゃないか!?」
カリッ!ひとくち食べた旅人が、目を輝かせた。
「うまい!!」
みんなは大喜びでぼくを分け合った。
ぼくは、自分の体がどんどん小さくなっていくのを感じながら思った。
「ぼくは焼かれて役にたつ!……いや、何度も焼かれて、もっと役にたった!!」
そして、最後のひとかけらが誰かの口の中に入ったとき、ぼくの冒険は終わった。
でもきっと、ぼくのかけらはみんなの心の中に残るはず。
ぼくは焼かれて役にたつ 〜パンくんの大冒険〜 あると @alto-ayame88
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