ダンスと鼓動 KAC20255

ミドリ/緑虫@コミュ障騎士発売中

ダンスと鼓動

 幼馴染のゆたかはずっとダンスに夢中で、今ではテレビやネット配信で見かけない日はないほど有名になった。


 昔から心臓が悪くて布団から出られることの方が少ない僕は、裕の生命感に溢れた力強いダンスに勇気づけられていた。でも僕の部屋で踊ると埃が立って咳き込んでしまうから、裕はいつもどこかの公園で撮影した動画を僕に見せてくれた。


「いいなあ、僕も生のダンスを見たいよ」

すぐるの心臓が治ったら真っ先に見せてやる。約束するよ」

「うん、じゃあ頑張らないとだ」

「ああ、頑張れ卓……っ」


 あわよくば踊ってみたいなんて思ったけど、両親も裕も心配するのは目に見えていたから口には出さなかった。


 僕はスマホも持っていない。お母さんが「心臓に悪いから!」と電磁波恐怖症なせいだ。だから裕のダンスの動画は、裕がこっそり持ち込むスマホでしか見る方法がなかった。


 落ち込む僕に、ある日裕は言った。「だったら俺が天下無双のダンサーになってテレビでもどこでも観られるようにしてやる!」と。


 宣言後、裕は沢山努力をしてスターダムに駆け上っていった。だけど反比例して会える時間はどんどん減っていき。


 僕、今度心臓の手術を受けるんだよ。そう伝えられないまま、両親と共に病院に向かった。


 もしかしたら、もう裕のダンスは見られないかもしれない。考えたら手術を受けるのが怖くなって、僕は恐怖に震えながら手術室に向かった。


 僕は夢の中で、裕と一緒に踊っていた。麻酔中の夢は覚えてないらしいから、手術は成功した筈。だからこれは正夢なんだと背後から忍び寄る死への恐怖から目を背けた。


 でもやっぱり怖くて、裕に会いたくて。


「僕は裕のダンスが世界で一番大好きだ!」


 夢の中で声を張って言い続けた。大好きなら、きっとまた裕のダンスを見ることができるって。


 するとある時、僕の手を大きくて温かい手が握った。あれ? と重い瞼を開けると、涙でぐしゃぐしゃの裕の顔が目の前にある。


「俺は、卓が世界で一番大好きだ……!」

「裕……」


 裕は「卓がいなくなったらと思ったら、怖かった……!」と僕に縋りつくと、号泣し始める。


 いつもは格好よくて自信満々な裕が泣く姿を見た僕の心臓は、とくんと大きな音を立てたのだった。

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