Epilogue

 放課後、ホームルームが終わって帰ろうとすると約束通り、夏海がやってきた。


「さあ未知瑠、続きを考えるよ」

「いや、もういいって」


 辟易しながら教材でずっしりと重いリュックを背負い歩き始めると夏海が着いてくる。


「武士の力の謎、考えたんだけどさあ。やっぱり剣道部に関係があると思うんだよね。だってさ、やっぱ武士は剣が命じゃん。そう考えるとさあ……」


 ペラペラ喋り続ける夏海に適当に相槌を打っていると校舎を出たところで不意に頭上からフルートの音色が聴こえてきた。見上げた俺の瞳には四階音楽室の窓際で堂林先輩が横笛を構える姿が小さく映っている。

 目線に気がついた彼女が軽く手を振った。

 俺は手を振り返す代わりに小さく会釈をする。

 遠目によく分からなかったけれど彼女の顔にはきっと微笑みがあるのだろうと思った。


「え、だれ?」


 俺の目線を追って見上げた夏海が訊く。

 

「まあ、ちょっとした知り合いだ」

「ふうん」


 視線を切って歩き始めた俺の後ろで「あ、ちょっと待ってよ」と追ってきた夏海が奇想天外な仮説を喋りながら着いてくる。

 俺は歩きながら淡い水色の空を見上げて軽く祈った。


 ―――― 願わくば10回目の夢には幸運が訪れますように。


 <了>

 

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9回目はありえない 奈知ふたろ @edage1999

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