__________Deepest

そもそも狭川のことを信じてよかったのだろうか。


本当にここから出られる保証などあったものではない。ただ、このわけのわからない場所で人の形をして言葉が通じる存在だったからというだけで、僕は度重なる嫌がらせを受けていても頭のどこかで狭川のことを信用していたのではないか。本当に馬鹿だった。人間の夢に入ってこれるようなものがまともであるわけがない。いつもそうだ。何かを信じれば必ず裏切られる。他人を信用しないとあれほど何度も。ずっとその繰り返し。反復。それは一体悪夢と何が違うのだろうか。じゃあ、今この手を握っているのは、


「あーマズいね。これは。山都の一番触れられたくないところかこれは。」

「・・・・・・狭川」


次の瞬間足元の感覚が消えた。

突然放り出されたように身体のバランスが崩れる。迫り上がる胃を締め付けるような、全身が裏返ってしまいそうな感覚。


僕は暗闇の中を落下していた。


あまりの恐怖に叫ぶことすら出来なかった。

果たしてこの闇に底というものがあるのだろうか。どこまでもどこまでも空気の塊を身体が裂いていく音が聴こえる。どうしたって硬い地面に叩きつけられて身体がバラバラになってしまうことを想像してしまう。


夢の中では死なないとあの男は言った。

それすらももう、僕は信じることができない。それなのに、僕の右手にはまだ、


「・・・・・・夢から覚めるには何が必要かわかる? 山都。」

風に紛れて狭川の声が聴こえる。

わからない。そんなものはわからない。わかっていたならこんなところにはとっくに


「お姫さまの眠りを覚ますのは、いつだって王子さまのキスと相場が決まってる。」


不意に後頭部が引き寄せられた。落下する暗闇の中で唇に触れたのは、






気がつくと、つけっぱなしのPCの前でコントローラーを握りながら椅子から転がり落ちていた。全身が痛む。


よろよろと身体を起こし、キッチンへと向かう。いつものように冷蔵庫から炭酸水を取り出す。ペットボトルの口が唇に触れた瞬間、僕はそれを思わず手放してしまう。服と床は炭酸水でびちゃびちゃになった。


▶▶


後日、口座に見知らぬ金が振り込まれていた。

振込依頼人名は■■■□□となっていて、読むことができない。

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Deeper 望乃奏汰 @emit_efil226

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