4/8(執筆者:marone)
「うーんここら辺だったはずなんだけど……」
「温泉街なだけあって、旅館の数も多いからね。ちょうど僕らが泊まろうしてるところの方面だったらいいんだけど、そうじゃなかったら見つけられないよな……」
「まさかこんなにたくさん黒たまごが売ってるなんてね。おなかすいてきちゃった」
「温泉まんじゅうも食べただろ? 亜希は食いしん坊だなぁ」
「えへへ」
そんな他愛もない話をしながら、旅館が立ち並ぶ通りをぶらぶらと歩く。
なぜ通りをぶらぶらしているのか、何を探しているのか。それは今から少し前、お店で温泉まんじゅうを待っているときに遡る。
***
「前に私のおばあちゃんの話したの、覚えてる? 母方の」
「あぁ、覚えてるよ。もう亡くなったのも半年前か……」
「そう。おばあちゃん、よく温泉土産を買ってきてくれてたんだけど、その中に黒たまごもあって。チラシに包んで持ち帰ってきてくれたのを家族で食べながら、いつか行ってみたいって話をしていたんだよね」
「そうだったんだ。それで?」
「おばあちゃん、毎日のようにおじいちゃんにその話してて、もしかしたらこの手紙を入れたのもおじいちゃんだったのかなぁって」
「……え? いやいや、だって、亜希のおじいちゃんが亡くなったの、もっと前だよね?」
「そう、今から11年前の……それこそ、このくらいの時期。」
「だったら、手紙を入れるのも、ましてや最近のチラシを使うのも難しいんじゃないかな」
そう言うと俊は封筒の中から手紙を取り出した。そこのチラシには、一部ではあるが最近の日付が書かれている。さすがに11年前に亡くなった人がこれを作るには少し無理があるだろう。
「……そんなことわたしもわかってる。これは荒唐無稽な話で、現実では起こるはずがないのかもしれない。でも、でもさ、わたしは奇跡が起こったって信じたい。おじいちゃんが、おばあちゃんの話を覚えてて、わたしをここまで連れてきてくれたって。ここまできたのは偶然なんかじゃない、必然だったんだって!」
「……そうか。そうだね。亜希らしい、素敵な考えだよ。でも、亜希のおじいちゃんが手紙をくれたとして、それをどうやってポストに入れたんだろう」
「そうなんだよ~、そこなんだよなぁ~。……ねぇ俊はどう思う?」
「うーん、そうだなぁ。今のままじゃ、まだ考えるヒントが少ないよね。亜希のおじいちゃんやおばあちゃんの知り合いとかってここに住んでたりする?」
「うーんどうだろう。ふらふらーってしてた人だったからなぁ……」
「どこに泊まったとか、なにしたとか……」
「あ! ここに来た時、友人がやってる旅館に行ったって!」
「よし、じゃあまずはそこに行ってみよう! 僕らの謎解きはまだまだここからだ!」
***
亜希のおばあちゃんが話していたのは、「黒たまご」ののぼり、入り口にある大きなたぬきの置物、その旅館には露天風呂があったということだ。ありきたりといえばありきたりなのかもしれないが、これがすべて当てはまる旅館はさっきから見つけられない。まさか違う方面に向かってしまったのか。
お互い慣れない土地で疲れてしまい、今日はもう切り上げることにした。疲れている中探したところで、お互い楽しめることはないだろう。
泊まる旅館でおいしい温泉まんじゅうを味わい、温泉から上がった後は卓球をして、オセロをして。楽しい時間を過ごして一日を終えた。せっかくの恋人との旅行なのだから、楽しまなければ仕方がないだろう。たくさん遊んで、しまいには笑いつかれて寝てしまった。
<続>
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