3/8(執筆者:Coffee Summer)
駅舎の改札を出てエスカレーターを降りると、二人は狭いバス乗り場に出た。
「あ! バス来てる!!」
慌てて駆け降りる俊の腕を亜希が掴む。
「ちょっと待って!! それ伊豆箱根バスじゃなくて箱根登山バスだよ。」
箱根周辺は温泉以外に湿地や洞窟など観光資源が豊富だから、バスの種類がやたらと多い。
「まったくおっちょこちょいな助手くんだな」
俊の額を指で小突きながら、亜希がからかう。
「ごめんごめん、僕らが乗るバスの停留所はあっちか笑」
時刻表見てくるね。と言って立ち去る俊を見送りながら、亜希は壁に添えられたベンチに腰を下ろした。
ちょうどバス通りを挟んだ通りが商店街になっていて、NERVの暖簾やら箱根そばやら和風の看板がズラリとならんでいる。中でも、風情のある木造のお店に掲げられている「温泉まんじゅう」の文字を見て、亜希は祖母との思い出をふと思い出していた。
《亜希の祖母は温泉が大好きな人だった。老後はあちこちの温泉地を巡っては、ご当地の温泉土産を買ってチラシに包んで亜希の家まで運んでくれた。たしか亜希が黒たまごの味を知ったのは祖母のお土産が最初だっけ。そういえばその黒たまごを包んでいたチラシを見て、箱根湯本の温泉まんじゅうを食べに行きたいって話を家族としていたんだった》
そこで亜希はまた、はっとして封筒に入った手紙を取り出す。
「亜希ー! 次のバス、一時間二十分後だった……って何やってんの?」
息を切らしながら俊が覗き込む。
「それならちょっとあそこのお店入らない?電車での話の続きをしよう。」
「ほら」と、亜希が指を指した先を見て俊は目を見開いた。
「あそこって……!」
お店に入ると、俊はどこか懐かしそうに店内をぐるりと見回していた。
「このお店って、俊が思い出せそうで思い出せなかった、俊のお気に入りのお店の特徴にそっくりじゃない?」
「よく気がついたね! びっくりするほどそっくりだよ!」
「わたし、気がついたことがあってさ。ひょっとしたらこの旅のヒントになるかもしれないんだ。」
二人が注文した温泉まんじゅうを待っている間、展開されていく彼女の推理に俊は耳を傾けた。
ある日自宅のポストに投函された手紙を開いてみると、何かのチラシに印刷された文字でツギハギして作ったのだろう、《ぼくはわけあってとおくに行けません。ぼくのかわりに黒たまごを食べてきて》と拙く書かれていた。その手紙には宛先の住所も名前も書いていないことから、手紙の主が直接ポストに投函してきた可能性があることに電車で気がついたのだった。また、手紙の入った封筒には何の文字も印刷されていないチラシ片が入っていた。
「それで私、思うんだけれども―――」
彼女は続ける。
<続>
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