幼なじみの初恋と成長を描く、優しい青春物語。
- ★★★ Excellent!!!
『女神さまには勝てない』レビュー
── 幼なじみの優しさと、初恋のきらめき──
レビュアー:ひまえび
ミスミテンテン様の『女神さまには勝てない』は、幼なじみの二人が織りなす、切なくも温かな青春物語です。
シュウ君が心を寄せる「女神さま」と、彼をそばで見守る「わたし」の視点が交錯しながら、思春期の揺れる心情が丁寧に描かれていて、胸の奥がじんわりと温まります。
シュウ君が「女神さま」に出会ったのは中学二年生の春。両親の離婚話で心が不安定になっていた彼は、偶然耳にした彼女の歌声に救われ、やがて強く惹かれていきます。そんな彼を、幼なじみの「わたし」はただそばで支え続けます。無理に距離を詰めることもなく、けれど確かに傍にいる存在として。
高校に進学しても、二人の距離感は変わらず続いていきます。
シュウ君は女神さまの話を熱を帯びた早口で語り、「わたし」はそれに相槌を打ちながら微笑む──その静かな時間の積み重ねが、彼女の中に少しずつ「特別な想い」となって芽吹いていく描写がとても自然で美しいです。
終盤、彼が差し出した一枚のチケット。
それはただのライブではなく、彼にとっての「覚悟」の象徴であり、「わたし」と向き合うためのきっかけでした。
どちらの恋が叶うのか、それとも叶わないのか。結末は語られすぎず、余白のあるまま読者に委ねられています。
ミスミテンテン様の柔らかで透明感のある筆致が、登場人物の心の揺れを細やかに、優しく描いていて、読後にはふわりとした温かさが残ります。
青春小説の王道でありながら、どこか懐かしくて、静かな感動が心に染みました。素敵なひとときをありがとうございました。