すべての真相
ガタガタと震えながら病室でひたすら待ち続ける。早く来て、と伝えてもらったはずなのに、丸一日経っても来ない。早く早く、伝えなければいけないことがあるのに。
あの時、朦朧とした意識の中で聞いた根津の言葉。僕は熊崎を殺してない、の言葉。そうなのだ、自分もそう思う。何故なら、よろけてストーブに突っ込むことになってしまったあの時。
背中を押されたのだ。
あの場で背中を押すことができたのは、牧瀬以外では二人しかいない。熊崎が死んだ時も根津はいなかった。あの二人のどちらか。
それなら、可能性があるのは赤星しかいない。人が死んでいるのにやけに冷静で全然パニックになってない、しかもずっと上着なしで動き回っていたのに寒がる様子もない。
「何で来ないの、お願い牧瀬君……」
涙声となる。まだ人と会うべきじゃないと、医者か親が変な気遣いをしたのかもしれない。牧瀬の性格を考えれば飛んでくるはずだ。
自分には腕がない。ナースコールが押せない。普段は母が付きっ切りなのだが、今買い物に行っている。何かあったら押せるようにと、大きめのボタンのタイプにかえてもらった。これなら肘でも押すことができる。正直ものすごく痛いがこれくらい我慢できる。必死にボタンを押そうとするが。
スっと、扉が開いた。母が帰って来たのだろうかと顔を上げ、恐怖で引きつる。
「いやああ!?」
悲鳴交じりの声が響いた。無表情のまま、無言のまま赤星はじっと濱田を見つめた。
「あ、あんたが! 私を押した! クマちゃん殺した! 根津だけかと思ってたけどアンタも!」
大声で騒いでいるというのに誰も様子を見に来ない。個室だが、隣の部屋にも誰か入院しているはずなのに。人が来てほしくて大声にしているのもあるが、恐怖で声が完全に裏返っていた。赤星は無反応だ。その様子がさらに不気味で恐ろしい。
「当たってるけどはずれ」
「え?」
違う声がした。この声は、赤星ではなくて。目を見開く。赤星に続くように入って来たのは。
「温泉ポンプ壊したのも、熊崎の首転がしたのも、お前の背中押したのも全部俺」
「壊すなよアホ。牧瀬は下手したら低体温になってただろ」
「マッキーのおかげで人間っぽくなれたけど。嫌いなモンはキライなんだよ、風呂」
何故。どうして、そんなはずは。ああでも、人が死んでるのに落ち着いていたのも上着無しで動き回っていたのも、コイツも当てはまるじゃないか。
二人の目が赤い。逃げようともがいても、腕がないから体を支えて動けないし痛いし体力がなくて一人で動けないし怖いし怖いし怖いし怖い怖い怖い怖い
赤星は扉をしめて鍵をかけるだけで動かない。近づいてくるのは、思いを寄せていた男。牧瀬の事を知りたくて近づいたと思われたようだが違う、本当に好きだった。優しくて、気さくで、もっと仲良くなりたかっただけ。
「ま、ま、まきせくん」
「気安く呼ぶな。殺してないよ、マッキーは俺たちの仲間になってほしいだけだから」
ゆっくりと上げる。そしていつも通り、人懐っこい雰囲気でにっこりと笑った。
「お、かあ、さ……」
「さっき殺しておいた」
津田は一気に腕を振り下ろした。
<了>
雪鬼 aqri @rala37564
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