第10話 王子様登場。そして、宇宙へ・・・
「それじゃ、今日も、皆さん、よろしくお願いします」
園長の朝礼のいつもの挨拶を聞いて、俺は、怪獣たちとお客様たちを出迎えに、正面ゲートに向かう。
怪獣島に行ってから、数か月たった。あのときのことは、忘れられない。
あのとき撮った写真は、従業員用の食堂に展示して、俺のレポートも書き添えた。
従業員のみんなは、とても喜んでくれて、とても驚いてくれた。
園長にも褒められて、ホントにうれしくなった。両親にも話をして、写真を見せると
すごく喜んでくれて、俺もうれしい気持ちで一杯になった。
この写真をお客様たちにも見せたいけど、怪獣島のことは、秘密なので見せられないのが残念だ。
「ようこそ、怪獣ランドへ」
俺は、お客様一人一人に声をかけた。怪獣たちは、相変わらず子供たちに大人気だった。
俺が怪獣ランドで働くようになってから、もうすぐ一年だ。
もうすぐ、年の瀬だ。クリスマスは、怪獣ランドでも、飾りつけとかサンタのコスプレしたり毎日が大盛り上がりだった。カネドンたちも、普段は着ないサンタの赤い衣装を着ている。
園内は、クリスマスソングが鳴り響き、サンタに変身した園長は、子供たちにプレゼントを渡している。
そんな年末もあっという間に過ぎて、正月がやってきた。
怪獣ランドは、正月も開園している。冬休みなので、家族連れが多い。
園内では、餅つきとか羽根つき大会など、怪獣たちも大活躍している。
もちろん、俺も大忙しだ。怪獣たちの付き添いだけでなく、従業員のみんなの手伝いとか園長の雑用を代わりにやったり、毎日が忙しい。
それでも、充実感で満たされて、心地よい忙しさだった。
プライベートになるが、姉ちゃんに子供が生まれた。両親にとっては、初孫だ。
可愛い女の子だった。俺にとっては姪になる。この年で、叔父さんになるとは思わなかった。
それからも俺は、変わらず怪獣ランドで仕事をしている。
怪獣たちともすっかり仲も良くなって、カネドンやグースカとも笑い合えるようになった。
ピグタンは、相変わらず人の言葉は話せないが、鳴き声で何を言いたいのか、少しだけどわかるようになった。
俺も怪獣語がわかるらしい。いつかピグタンとも、普通に会話ができるようになりたい。
また、シェリーさんとも定期的に会うようになった。俺からは、怪獣ランドのことやカネドンたちの様子とか話して、彼女からは、その後の怪獣親子たちの話を聞く。
住んでいる岩本博士の家にも行ったことがある。外観は、普通の家なのに、中は発明品がゴロゴロしていて家中のあちこちに積まれていた。
岩本博士が言うには、大発明というが、彼女には、役に立たないただのガラクタと呼ばれている。
そう言えば、あの星のキリカさんはどうしているのか? アレからまったく連絡がないし、園長からも話を聞かない。
無事に女王様になっているのだろうか? それならそれで、連絡くらいほしいと思うが、こっちからは、どうすることもできない。次に会うときは、きれいなお姫様になっているだろう。キリカさんにも、会ってみたくなった。
そんなある日のことだった。いつものように、朝の朝礼で園長の話を聞いた後で、またしてもビックリする話を聞かされた。
「今日も元気によろしくお願いします。それと、来週ですが、ピッカラ星より地球の視察に王子様がやってくることになりました。怪獣ランドにも来るので、失礼のないように、よろしく頼みます。それで、王子様のガイドは、星野くんとカネドンたちにお願いするので、がんばってください」
今度は、星の王子様が来るのか? お姫様の次は、王子様か・・・
いったい、宇宙の星には、どんだけ偉い人がいるんだ。
しかも、地球に視察って、どういうことだ?
「あの、園長・・・」
「星野くん、今回も頼むよ。この前のキリカちゃんよりは、楽だと思うよ。何しろ、まだ、子供だからね」
「子供ですか?」
「そうだよ。名前は、ピッカラ王子」
「そのまんまじゃないですか!」
「星の名前から取ったんだよ」
「宇宙人ですよね?」
「もちろん」
「言葉は、通じるんですか?」
「大丈夫だよ。ただ、ちょっとわがままなところがあるけど、そこは、子供だから大目に見てやってよ」
どうする・・・ 園長からの頼みなら断るわけにいかない。
もちろんやる。やるけど、わがままな王子様って、一番面倒臭いんじゃないのか?
お客様なら、子供の扱いも慣れてきたけど、それは、人間の子供というのが前提であって宇宙人の子供なんて、どう扱ったらいいのかわからない。
キリカさんのように、大人な女の人も難しかったけど、子供で王子様って、もっと難しいんじゃないのか?
それでも、やると決めたからには、がんばるしかない。
「あのさ、ピッカラ王子って、どんな人なの?」
園内を怪獣たちと散策しているときに聞いてみた。
「ズバリ、ピノキオだよ」
「ハァ?」
カネドンにあっさり言われても、俺には、まったく理解できない。
「秀一くんて、ピノキオって知ってる?」
「そりゃ、知ってるよ。木の人形が人間になるって話だろ。鼻が伸びるっていう男の子だよな」
「そうそう。見かけは、そっくりだよ。もっとも、木の人形じゃないけどね」
そう言われても、まるで想像がつかない。
「グースカは、知ってる?」
「赤ちゃんだった頃に、園長から写真を見せてもらったよ。可愛い男の子だったな」
「ピグタンは、知ってるの?」
「ピグゥ~」
どうやら、見たことがあるらしい。目をパチパチさせながら手を叩いている。
ピノキオと言われても、俺が知ってるのは、絵本で見た程度で、他に想像できない。
いったい、どんな子供が来ることやら・・・
そして、いよいよその日がやってきた。
今日がその日なのだ。開演前に従業員たち全員が、正面ゲートに集まって出迎えることになった。
もちろん、俺や怪獣たちもいっしょだ。開園時間前なので、お客様たちは、まだ誰も来ていない。園長が時計を見ながら言った。
「そろそろかな。いいですか、皆さん、くれぐれも失礼のないように。何かあったら、宇宙規模で問題になるからね」
宇宙規模で問題になるって、そんな大それたことをこれからするのかと思うと緊張する。すると、青空の向こうから小さなロケットがやってきた。一瞬、ミサイルかと思った。それが、一直線にこっちにやってくる。まさか、アレに乗ってくるのか?
俺は、片時もそれから目を逸らせなかった。瞬きするのももったいない。
しっかり目に焼き付ける。目の前にロケットがやってくるのだ。夢か幻としか思えない現実なのだ。
そのロケットは、次第に大きくなって、ゆっくりと着陸した。
ドアらしいドアもないそのロケットから出てきたのが、あのピノキオ・・・ じゃなくて、王子様だった。
まさか、一人で来たのか? 王子様なら、護衛とか警備隊とかいなくていいのか?
そう思って見ていた俺の前に現れたのは、身長は、130センチほどの小さな男の子だった。小学生というか、ピグタンと変わらない背丈だ。しかし、王子様らしく、キラキラの衣装にすらっとした細い足に白いタイツを履いている。頭には、王冠を被って、なぜかステッキまで持っている。
でも、一番驚いたのは、カネドンが例えたように、顔がピノキオにそっくりだったことだ。
小さなクリクリした目にピンクの唇。そして、まっすぐ伸びる長い鼻。まさに、ピノキオだ。もちろん、体は、木ではない。顔も薄いクリーム色をしていて、王子様というオーラが見える。子供でも、王子には変わりないらしい。
「ようこそ、地球へ。ようこそ、我が怪獣ランドにお越しくださいました」
園長が深々と頭を下げて挨拶する。ついで、従業員たちも揃ってお辞儀をする。
俺も慌てて頭を下げて見せた。
「良きに計らえ、ミラクル・・・じゃなくて、園長」
「ハイ、お任せください。ですが王子。ここは、地球なので、地球の流儀に従ってもらうのでそのつもりでよろしく」
「わかってる。父上から、しっかり言われてきたから心配するな。園長には、くれぐれもよろしくと父上と母上から言われてきたんだ。うまくいけば、今後は、ピッカラ星と友好を結んで、宇宙旅行に推薦しようと思ってるんだ」
「それは、いいですね。それでは、まずは、こちらでのガイドは、この星野秀一くんと怪獣たちがやりますので何でも言い付けてください」
そう言われて、俺たちは、一歩踏み出すと、怪獣たちと揃って自己紹介しながら頭を下げた。
「星野秀一です。よろしくお願いします」
「カネドんです」
「グースカです」
「ピグゥ~」
「ぼくは、ピッカラ。よろしくね」
そう言って、握手までした。第一印象は、そんなにわがままを言いそうな男の子には見えない。
どう見ても、小学生の男の子という感じだ。内心ホッとしたのは、言うまでもない。
そんなわけで、俺は、今日一日、ピッカラ王子を伴って、園内を案内しながら、お客様たちとも触れ合いながら怪獣たちと散策する。
「ちょっと待って」
園長に言われて振り向いた。
「星野くんは、王子を連れて園内の散策をお願い。カネドンたちは、一般のお客様の出迎えをいつも通りにやって。後で、カネドンたちと合流するから、先に王子を案内してあげて」
「わかりました」
ということで、とても心細いけど、王子を連れて、二人で先に園内に入った。
他の従業員たちもそれぞれの持ち場に向かい、カネドンたちは、ゲート前でお客様たちのお出迎えだ。
園内に入っても、なんとなく間が持たない。何を話していいのかわからず、言葉をかけていいのかもわからない。
「秀一と言ったな」
「ハ、ハイ」
「今日は、よろしく頼む。しかし、地球は、いいところだな。ホントにいい星だ」
王子から話しかけてきたので、緊張しながらも返事をする。
「前に来たことがあるんですか?」
「ずっと前に、一度だけね。もっとも、あの時は、来たくて来たわけじゃない。不可抗力だ」
なんか、事情がありそうで、それ以上は聞くに聞けなかった。
園内を歩くと、乗り物やアトラクションについて、俺は、説明しながら歩く。
「何か、乗りたいものとかありますか?」
「全部に決まってるだろ」
即答だった。やっぱり、王子とはいえ、子供の感覚らしい。立場が立場だから、特別待遇だ。
「秀一、お前は、人間なんだろ?」
「そうです。怪獣ランドでは、ぼくだけです」
「そうか。ぼくは、人間が大好きだ。それと、地球に生きる、動物たち、全部が好きだ」
面と向かって言われると、少し照れる。動物好きというなら、とりあえず、ふれあい広場に案内しよう。
それにしても、怪獣たちが来るのが遅い。何を話していいのかわからないし、間が持たない。無言というわけにもいかないし、雰囲気作りが苦手な俺としては、こんな時こそカネドンやグースカが必要だ。
「おい、秀一、ウサギがいるぞ」
ふれあい広場で遊んでいるうさぎたちを見て、駆け出した。
「王子、ちょっと待ってください」
俺は、慌てて後を追った。
「触ってもいいのか?」
「いいですよ。でも、そっとですよ」
「わかってる」
そう言って、王子は、白いうさぎを優しく抱き上げると、背中を撫でた。
「可愛いなぁ」
どうやら、王子は、ホントに動物が好きらしい。その後も、モルモットやヤギなどを撫でたり抱いたりして
かなりご満悦の様子だった。これで、時間を稼げる。この間に、カネドンたちが合流するのを待った。
しばらくすると、入場したお客様の姿が見られるようになってきた。
もうすぐ、カネドンたちも来るだろうと、入場ゲートの方を気にする。
すると、ようやく、カネドンたちが来るのが見えてきた。ホッとしていると、俺の知っている人たちが見えた。
少しずつその姿が大きくなってきた。俺は、その人たちを見て、驚くと同時に、思考回路が停止した。
「秀一くん、お待たせ」
カネドンがそう言って、ふれあい広場にやってきた。
「ちょ、ちょっと、どうして・・・」
俺が目をパチクリしていると、カネドンたちといっしょにやってきた人が笑顔で言った。
「秀一、ちゃんと仕事してるか」
「と、父さん・・・」
それは、俺の父親だった。
「心配だから、見に来たわよ」
「母さん!」
横にいたのは、俺の母さんだ。そして、もう一人、俺の知ってる人がいた。
「秀ちゃん、来たわよ」
「姉ちゃんまで・・・」
もう一人は、俺の姉さんだった。しかも、生まれたばかりの赤ちゃんを抱いている。
「どうして、みんなで・・・」
「この子にカネドンたちを見せたかったのよ」
「可愛いねぇ。女の子だって」
「そうよ。可愛いでしょ」
グースカは、胸に抱かれた小さな赤ちゃんを見て笑っている。
「ピグゥ~」
「見てみて、可愛いでしょ」
ピグタンも小さな赤ん坊を見て、喜んでいる。
それにしても、いきなり、家族全員で来るなんて知らなかった俺は、驚くしかなかった。
「旦那は、仕事だから、お父さんとお母さんに付いてきてもらったのよ。ビックリしたでしょ」
「ビックリしたよ」
姉ちゃんは、そう言って、楽しそうに笑っている。
「休みが取れたんでね、秀一のことも気になっていたし、みんなで来たんだよ」
父さんは、そう言って、カネドンとも笑顔で接している。
「キミたちとも久しぶりだね。元気でやってるかい?」
「秀一は、ちゃんと仕事してるの?」
「大丈夫だよ」
「秀一くんは、たくさんお仕事してるよ」
「ピグゥ~」
カネドンたちは、そう言って、俺をフォローしてくれるのが、うれしかった。
そこに、王子がやってきた。
「アレ? もしかして、星野隊員と奥方様ですか? それに、美鈴も・・・」
「誰かと思ったら、ピッカラくんじゃないか」
「久しぶりね。地球に来たの?」
「ピッカラくん、久しぶりね」
おいおい、王子は、俺の家族とも顔見知りなのか? そんなの聞いてないぞ。
「ちょっと、父さんたちは、王子とも知り合いなの?」
「そうだよ。言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ」
すると、母さんが話をしてくれた。
「秀一が生まれる前だから、仕方がないわね」
母さんの話だと、まだ、幼稚園だった頃の姉さんと父さんの三人で、怪獣ランドに来た。その時に、ピッカラ王子がやってきた。しかも、怪獣ランドに円盤ごと墜落した。不可抗力で地球に来たというのは、この事だったのだ。
「あの時は、大騒ぎしたわよね」
「あの時の美鈴が、こんなに大きくなって、しかも、子供までいるとはなぁ」
王子は、感心しながら姉さんと楽しそうに話している。
「星野隊員、奥方様、あの時は、世話になったな」
「おいおい、もう、今は、隊員じゃないよ」
「奥方様なんて、やめてよ。恥ずかしいじゃない」
父さんと母さんは、照れながらも笑っている。いったい、何があったんだろう?
聞いて見ると、宇宙旅行の途中だった王子が乗った円盤が地球に墜落した。
それを直したのが、父さんで、ケガをした王子を介抱したのが母さんだった。
「おかげで、ぼくは、ピッカラ星に帰ることができた。父も母も、すごく喜んでいたぞ。あのときのお礼が遅れて、申し訳ない」
王子は、頭に被っている、冠を脱いで頭を下げた。
「当然のことをしただけだよ。それにしても、今度は、何しに地球に来たんだい?」
「地球に視察に来たんだ。ピッカラ星と友好関係が結べれば、地球旅行に星のみんなを連れてきたいと思っているんだよ」
「それは、いいね。それと、王子になったんだって?」
「そうなんだ。もうすぐ、姫を迎えて、ぼくは、父の後を継ぐことになってるんだ」
「それは、おめでとう」
「ピッカラくんのお嫁さんて、どんな人なの?」
「それがねぇ・・・」
どうやら、王子は、どこかの星のお姫様と結婚して、父親の後を継いで、星の王になるらしい。でも、その話になると、何だか浮かない顔をしている。
「王子、おめでとうございます」
俺は、機嫌を損ねないように、祝うことにした。
「おめでとう」
「結婚するんだね」
「ピグゥ~」
怪獣たちも、王子のことを喜んでくれている。なのに、王子は、嬉しそうではない。
「どうしたの? うれしくないの」
「う~ン、姫がさ、ちょっと、気が強いというかなんというか・・・」
王子が余りうれしくないのは、そういうことが理由なのか。
相手の女性のが気が強いのは、ぼくも苦手だ。気持ちはよくわかる。
そこに、園長がやってきた。
「王子、楽しんでるかい?」
「あっ、園長」
「やぁ、園長、久しぶり」
「おや、星野くん。それに、奥さんと美鈴ちゃんも・・・」
父さんたちは、園長と笑顔で挨拶を交わしている。
ひとしきり、話をすると、こんなことを言った。
「実はね、王子が地球に視察に来たことを知って、キリカちゃんも来たんだよ」
「えーーっ!」
驚いたのは、俺だけじゃない。一番驚いたのは、なぜか、王子だった。
「キリカ姫が来るんですか?」
「そうだよ。そろそろ来る頃だよ」
園長は、笑顔で言うと、王子は落ち着きがなくなって、おろおろしている。
「ヤッホー!」
そこに、手を振りながらキリカさんがやってきた。
久しぶりに見るキリカさんだった。また、会えて、俺はうれしくなった。
「ピッカラくん、ホントに地球に来たんだ。あたしも来ちゃった」
「ど、どうも、姫様」
「やぁね、姫様なんて言わないでよ。星に帰ったら、あたしたちは、夫婦になるのよ」
「なんだってぇ!」
俺はもちろん、父さんたちも怪獣たちも、みんなビックリ仰天だった。
それじゃ、王子の結婚相手というのは、キリカさんだったのか!
「もう、行くなら行くって、言ってくれたら、あたしもいっしょに来たのに」
なるほど。王子の浮かない顔をしているわけがわかった。
確かに、キリカさんは、空気を読まない。キリカさんと怪獣ショーをしたときのことを思い出した。
毎日、振り回されてばかりで大変だった。その時のことを思い出すと、王子の気持ちが痛いくらいわかる。それは、怪獣たちも同じようで、王子を囲んで慰めていた。
「王子、気持ちを察しますよ」
「がんばってくださいね」
「ピグゥ~」
カネドンたちにまで慰められて、頷くしかない王子がちょっとおかしく見えた。
「ほら、何してるの、いっしょにジェットコースターに乗りましょうよ」
キリカさんは、俺たちに手を振ると、王子の腕を組んで、アトラクションの方に楽しそうに歩いて行った。もはや、俺は案内係としては必要ない。
「いいのかな?」
「いいと思うよ」
「二人きりにしてあげたほうがいいんじゃない」
「ピグゥ~」
俺は、カネドンたちの言うことに従って、後を追うことはしなかった。
その後、二人は、怪獣ランドを満喫した。と言っても、キリカさんの方が楽しそうだった。この分では、キリカさんに尻に敷かれて、王子も大変だなと同情する。
「それじゃ、王子の代わりに、父さんたちを案内してくれるかな?」
父さんが言うので、俺は、カネドンたちを引き連れて、父さんたちと園内を巡ることにした。
身内だけに、何だかとても照れる。自分の仕事振りを見られているのは、なんとなくやりにくい。
「えーと、それじゃ、どこから行く?」
俺は、父さんたちに聞いてみた。姉ちゃんは、子供を抱いているから、静かな乗り物のがいいだろう。
「それじゃ、あたしもいっしょにいいかしら?」
「シェリーさん!」
「どうして?」
「あら、遊びに来ちゃ悪かった?」
「イヤイヤ、そんなことないです」
今度は、シェリーさんの登場だ。怪獣ツアーに来た時のことが、一瞬にして脳裏に思い出した。
「カイン・・・ じゃなくて、地球じゃ、シェリーくんだったね」
「あら、星野さん。それに、奥さんに美鈴さんも」
「久しぶりね。相変らず、シェリーちゃんは、小さいままね」
「そういう、美鈴さんは、お母さんになったんだって」
「そうよ、ほら、見てよ」
「フゥ~ン、あの美鈴さんが、ママになるとはね」
そう言いながらも、シェリーさんは、姉さんの胸に抱かれている赤ちゃんを見て笑っている。
「怪獣の子供とかきてるの?」
「来るわけないでしょ。そう言えば、さっき、キリカさんとピッカラ王子にも会ったわよ。あの二人、結婚するんだってね。キリカさんを嫁にもらうなんて大変ね」
シェリーさんも、王子やキリカさんを知ってるらしい。
それもそのはず、シェリーさんもホントは怪獣なのだ。知ってて当然だろう。
そんなこんなで、俺は、父さんたちとシェリーさんを怪獣ランドを案内した。
と言っても、みんな案内するまでもなく、園内のことは知っているのだ。
行く先々で、従業員のみんなと言葉を交わしたり、笑って挨拶している。
「うわぁ~」
突然聞こえた叫び声の先を見ると、ジェットコースターに乗っている王子とキリカさんが見えた。
両手を上げて楽しそうにしているキリカさんとは反対に、王子は声をあげて今にも泣きそうだった。
でも、アレはアレで、二人はお似合いのカップルなのかもしれない。
俺が先を歩いて園内を散策しているときも、父さんたちは、シェリーさんと楽しそうに話ながら歩いている。
その途中で、カネドンたちは、お客様や子供たちと楽しく触れ合いながら、写真を撮ったりしている。
その様子を微笑ましく見ている母さん。もちろん、俺も自分の仕事を忘れない。
子供たちとカネドンたちの写真をカメラで撮る。楽しそうに話をしているのを邪魔しないように後ろに控えて、怪獣たちのフォローをする。
そんな俺を温かく見守っている家族がいることに感謝した。
この仕事を紹介してくれた姉さんにも手を合わせた。
父さんと母さんも、ここで仕事をしていたことを思うと、やっぱり、これは親子の縁なのではないかと思う。
俺は、この仕事が好きだ。毎日、怪獣たちと触れ合いながら、お客様には楽しく過ごして思い出に残る楽しい一日になってほしい。怪獣島で、貴重な経験をさせてくれた園長にも感謝だ。
お客様の笑顔を見るのが、今は、楽しくて仕方がない。
カネドン、グースカ、ピグタンという仲間もできた。
そして、キリカさんやシェリーさんという、友だちもできた。
これからも、いろいろな経験をするだろう。そのすべてが、俺の糧になる気がした。
「よし、これからも、がんばろう」
俺は、心の中で呟いた。それは、初めて変わった、自分の決意表明だった。
怪獣ランドという、素晴らしい職場に巡り合えたことは、幸せに思う。
そんな晴れやかな気持ちだった。
「ご乗車ありがとうございます。まもなく、ピッカラ星に到着します。お降りのお客様は、お忘れ物のないようにご注意ください」
俺は、今、事もあろうか、銀河鉄道に乗っている。そして、もうすぐ、目的地のピッカラ星に着く。
なんで、こんなことになったのか、それは・・・
「星野くん、ちょっといいかな」
いつものように朝の朝礼の後に、園長に呼ばれた。
「ちょっと、出張に行ってきてほしいんだ」
「ハイ、わかりました。それで、どこに行くんですか?」
「ピッカラ王子とキリカちゃんの結婚式に、私の代わりに出席してほしいんだ」
「ハイィィ!」
俺は、朝から思考回路が停止した。
「それって、宇宙ですよね?」
「当り前だろ。式は、再来週の日曜日にピッカラ星でやるから、明日にも出発しないと、間に合わない」
「間に合わないって、宇宙ですよね。どうやって行くんですか? ぼくは、普通の人間ですよ。宇宙になんて行けるわけないでしょ」
「大丈夫だよ。ピッカラ星までは、銀河鉄道で行くから。それも超特急だよ。これが、チケットね。ちゃんと用意しておいたから、乗り遅れないように」
渡されたチケットを手にしたまま、固まってしまった。
銀河鉄道ってなんだ? そんなのどこから乗るんだ? そんな電車は、聞いたことないし、全然知らない。
「あの、一人で行くんですか?」
「そうだよ。カネドンたちは、休めないからね。キミの代わりは、シェリーちゃんにやってもらうから」
「えっと、それで、どれくらいかかるんですか? ちゃんと地球に帰ってこられるんですよね?」
「当り前でしょ。帰ってきてからも、仕事があるんですよ。片道、2週間くらいかな。往復で、一ヶ月くらいだね。式とか祭典とかあるけど、二ヶ月もかからないから。しばらく地球を留守にするけど、キミのご両親には、了解を取ってあるから、安心して行ってきて」
マジか・・・ 父さんや母さんは、俺を一人で宇宙に行くことを許可したのか。
てゆーか、一人で宇宙に行くなんて、そんな夢みたいな話があっていいものか?
「それじゃ、頼むよ。明日、持って行くものを渡すから、ちょっと荷物になるけど、よろしくね。これは、地球とピッカラ星の友好にもなるから、しっかり頼むよ」
「あの、危険なこととかないですよね?」
「たぶんね」
「たぶんて、少しはあるってことですか?」
「そりゃ、宇宙では、何があるかわからないからね。でも、銀河鉄道に危害を加えたら、どうなるかそれくらいは、みんな知ってるから、手出しをするようなバカはいないから、安心して行ってきて」
そんな話を聞いても、まだ、信じられなかった。
そして、ホントに翌日俺は、銀河鉄道に乗った。これから一人で宇宙の旅に行く。
無事に帰ってこられるだろうか?
というわけで、俺は、銀河鉄道に乗っていた。
網棚から荷物を持って出口のドアに向かった。
「間もなく、ピッカラ星。ご乗車ありがとうございました。お客様は、お気をつけて、いってらっしゃいませ」
俺は、ブカブカの青い制服に身を包んだ車掌に見送られて、ピッカラ星に着いた。
「さて、いっちょ、やるか」
俺は、意気揚々とピッカラ星に向かって行く銀河鉄道の窓から外を見ながら、気合を入れた。
終わり
怪獣ランドにようこそ。 山本田口 @cmllaaa
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