第9話 大怪獣登場。

 その後、俺たちは、道なき道というか、獣道でもなく、ジャングルの中をさ迷いながら歩き続けた。

もちろん、俺は、道など知らない。でも、怪獣たちは、迷うことなくサクサク歩いているので俺は、後について行くしかない。歩いていても、あちこちから、怪獣の鳴き声が聞こえてくるのでまったく落ち着かない。いつ、襲われても不思議じゃない、とても危険な状況なのだ。

 しかも、危険なのは、怪獣たちだけではない。見たこともない植物が勝手に動いている。

腕に絡みついてきたのは、吸血植物の、サフランというものすごく危険な植物だった。蔦が伸びて生物の血を吸うらしい。それでも、怪獣たちは、落ち着いている。

焦る俺が、必死に振りほどこうとしても、伸びる蔦が絡まって動けない。

しかし、それを見たピグタンが、あろうことか、吸血植物をムシャムシャ食べ始めた。

確かにピグタンは、草食怪獣で怪獣ランド内の雑草を勝手に食べている。

だからと言って、そんな雑草と吸血植物は、全然違うと思う。

それでも俺は、ピグタンのおかげで、血を吸われずに済んだのは、ホッとしたのは言うまでもない。

 しかし、安心はできない。どこから何が襲ってくるのかわからない。

食虫花のバラサというのが襲ってきた。バラの花によく似た赤くてきれいな花だ。

しかし、生き物と見ると、トゲのような牙をむき出しにして襲ってくる。

こんなのに噛まれたら、ひとたまりもない。それなのに、ピグタンは、それすら食べてしまうのだ。もしかしたら、ピグタンは、最強の怪獣なのかもしれない。

 そんなこんなで、命からがら、元にいた洞窟に辿り着いた。

すでに夕日が傾き、空は夕日でオレンジ色に染まっていた。

「とりあえず、今日は、これで終わりにして休もうよ」

 カネドンの提案に、俺は、一も二もなく賛成した。怪獣島を歩き回ったせいか、足がパンパンだ。精神的にも肉体的にも疲れ切った俺は、その場に腰を降ろした。

 しかし、無人島の夜は、すぐにやってくる。当たり前だが、ここには電気はない。

水もガスもない。今夜は、どうやって過ごしたらいいんだ?

俺は、暗くなる前に、園長からもらった怪獣島の注意事項が書かれたノートを開いた。

「まずは、火を起こして明るくすることだって。そうは言っても、どうやって火を起こすんだよ? 俺は、タバコは吸わないから、ライターもマッチも持ってないぞ」

「それは、ぼくたちに任せて。秀一くんは、疲れてるから、休んでていいよ」

 カネドンが言うので、俺は、その言葉に甘えることにした。

まずは、グースカが洞窟から出て行って、薪に使えるものを集めてきた。

ピグタンは、どこからか水を汲んできた。カネドンは、岩や石を片付けて、竈を作ったり、俺の寝床を作ってくれた。

こんな時は、怪獣たちが頼もしく見える。とは言っても、人間の俺が、見ているだけというのは、情けないので俺も何か手伝えることがないか聞いてみる。

「秀一くんは、お腹が空いてるでしょ。夕飯の用意して。ぼくたちの分もあるからね」

 グースカに言われて、リュックの中を開けてみた。中には、園長にもらった、食料が入っていた。と言っても、カップラーメンやカップスープに、温めて食べるレトルトの食料や飲み物しかない。

それでも、今の俺にとって、ご馳走に違いない。でも、鍋とか調理器具はないぞ?

すると、グースカが岩をプラモデルのように何かの形に組み立て始めた。

「ほら、出来た」

 それは、石をくっつけたインスタントの鍋だった。石同士をどうやってくっつけたのかというと、グースカのよだれだった。どうやら、接着剤の役目もするらしい。

グースカのよだれ付きの石鍋でお湯を沸かすらしいが、衛生的に問題がありそうだけど、今は、そんなことを言ってる場合ではないので、見なかったことにする。

 カネドンが器用に作った竈に、ピグタンが組んできた水を入れて火にかける。

薪から火を起こすのも、カネドンの手にかかれば、あっという間だった。

薄暗い洞窟の中は、昼間のように明るくなった。しかも、炎のおかげでいくらか暖かい。

 俺たちは、お湯を沸かして、カップラーメンを食べることにした。

箸ももちろん、そこら辺から拾ってきた木の枝だ。

「ピグゥ~」

 俺は、ぼんやりと真っ赤な炎を見ていると、ピグタンがやってきてなにかを差し出した。

「なに、これ?」

「ピグゥ~」

 相変わらず、ピグタンの言葉がわからない。

「それは、木の実だよ。甘くておいしいよ」

 カネドンが通訳してくれた。ピグタンは、目をパチパチさせて、黄色いサクランボくらいの丸い木の実をパクっと食べた。そして、残りを俺に差し出した。

「食べて大丈夫なの?」

「ピグゥ~」

 どうやら大丈夫らしい。イマイチ、信用できないが、怪獣たちは、ウソは付かない。俺は、一粒つまんで口に入れた。

「甘い!」

 それは、とても甘くておいしかった。熟したミカンのような味がした。

これは、果物というか、フルーツというものなのかもしれない。

「ピグタン、ありがと。とっても、おいしいよ」

 俺が笑顔で言うと、ピグタンもうれしそうに飛び跳ねた。

こんな小さな怪獣でも、俺に気を使ってくれるのがうれしかった。

 その後、俺たちは、カップラーメンを食べて、寝袋に潜って寝ることにした。

ピグタンは、すでに眠りについて、グースカとカネドンもうとうとしてきた。

俺は、資料を見ながら、明日の予定を考えた。でも、いつの間にか、眠ってしまったらしい。

初めての野宿が、無人島の洞窟で、それも、外には怪獣がいる。こんな経験は、やろうと思ってもできることじゃない。

俺は、怪獣たちの鳴き声を聞きながら、夢の中に落ちて行った。


 怪獣島の朝は早い。太陽が出ると同時に、一日が始まる。

「おはよう」

 俺は、そう言いながら、寝袋から這い出すと、ピグタンだけで、カネドンもグースカもいなかった。

「ピグゥ~」

「カネドンとグースカは?」

「ピグゥ~」

 ピグタンが外に向かってピョンピョン歩き出した。

俺は、慌てて後を追った。洞窟から出ると、外は、太陽が上がって、青空が広がっている。深呼吸をすると、空気がおいしい。もちろん、どこからか、怪獣たちの声が聞こえる。

俺は、ピグタンについて、散歩してみることにした。

 洞窟から出て、ピグタンの後について歩く。足元は、岩とか石がゴロゴロしているので、とても危ない。

それでも、都会は、アスファルトばかりなので、こんな岩場を歩くのは、決して嫌いじゃない。

見上げれば、見たこともない木や花が咲いているし、怪獣たちの声が今では、とても楽しい。

 すると、背丈よりも高い草をかき分けて、カネドンとグースカがやってきた。

「おはよう。どこに行ってたの?」

「おはようございます、秀一くん」

「浜まで様子を見てきたんだよ」

「何かあった?」

「ほら見て、魚を取ってきた。これを焼いて食べよう」

 そう言って、大量の魚を抱えていた。でも、スーパーや魚屋では、見たこともない魚ばかりだ。

俺たちは、魚を持って洞窟に戻ると、早速、火を起こして魚を焼いて食べた。

正直言って、とってもうまかった。こんなうまい魚は、今まで食べたことがない。

新鮮だからなのかもしれない。味付けなんかしなくても、十分塩味が聞いていて、朝から大満足だ。

 お腹が一杯になれば、早速、調査開始だ。

「さて、行くか。んで、まずは、どこに行く?」

「海まで行ってみよう」

 グースカが言うので、俺たちは、みんなで海まで行ってみた。

白い砂浜、青い海、打ち寄せる波音は、いつまでも聞いていられる。

「いいとこだなぁ」

 俺は、調査も忘れてそんな気持ちになっていた。

すると、はるか向こうの波が盛り上がった。

「秀一くん、逃げたほうがいいよ。津波が来るかも」

「マジっ!」

 カネドンに言われて、俺たちは、急いで岩山を昇って高いところまで逃げた。

すると、言ったとおり、俺たちがいた場所に、すごい波が押し寄せた。津波だった。

「シーメンスが来るよ」

 グースカが言うと、波の中から巨大な角が見えた。やがて、大きな丸い目と牙が生えた口が顔を出す。

そのまま、四つ足の怪獣が尻尾を振りながら浜にやってきた。

「アレが、シーメンス・・・」

 俺は、余りにも巨大な怪獣に、呆然としていた。

「秀一くん、カメラ」

 カネドンに言われて、慌ててカメラを構えた。

「グアァ~ン」

 シーメンスの声は、耳をつんざくほどだった。その時、シーメンスの背中から、小さななにかが浜に転がり落ちた。

「秀一くん、行ってみよう」

「行くって、どこに?」

「浜だよ。シーメンスの子供に会いに行こう」

 そう言って、三匹の怪獣たちは、岩場から浜に飛び降りた。

「ちょ、ちょっと待って」

 俺は、足元に注意しながら岩場を下りる。命綱もなしで、こんな高い岩場から降りるなんて、ものすごく危険な行為なのに、俺の気持ちは、浮かれていた。

 浜に降りると、怪獣たちは、巨大な四つ足怪獣に近づいた。

「おいおい、大丈夫かよ。気を付けないと、踏まれるぞ」

 俺が大きな声で注意する。

「平気だよ。ほら、来てよ。可愛いよぉ」

 その時、俺の目に映ったのは、カネドンたちよりも少し背が高い、二足歩行の怪獣だった。

「ピギャ~」

 それは、シーメンスの子供だった。

「この子は、男の子だよ。シーゲラスに似ているから、お父さん似だね」

 俺は、ゆっくり近づくと、子供怪獣から近付いてきた。

「ウニャ~」

 ネコみたいな声だ。確かに、このサイズだと可愛い。父親である、シーゲラスをそのまま小さくしたような姿だった。

牙も小さく、頭の角もまだまだ大きくない。

「ガウゥ~」

 母親であるシーメンスは、一声鳴くと、背を向けて海の中に入って行った。

慌てて後を追おうとする、子供怪獣だが、途中で足を止めると振り向きざまに、カネドンたちに戻っていく。

「秀一くん、カメラ」

 カネドンに言われて、慌ててカメラを向けた。

何枚もシャッターを切った。カネドンたちと写真を撮った。もちろん、俺とも撮った。まさか、怪獣とツーショット写真を撮るときが来るとは思わなかった。

 その後、子供怪獣も連れて、四匹と一人で、怪獣島を散策した。

今度は、山をかき分けて出てきたのは、子亀怪獣だった。

まんま大きな緑亀という感じだ。たぶん、クインタートスとキングタートスの子供なんだろう。

子供だけでいるということは、近くに親がいるのではないだろうか?

 子供の亀怪獣は、大きなたらいくらいで、四つ足で歩いている。

「キィニャ~」

 亀って鳴くんだっけ? 俺は、不思議に思いながら、夢中でシャッターを切った。

子亀怪獣とシーゲラスの子供怪獣は、仲がいいらしく、顔を合わせるとじゃれ合っている。怪獣でも、子供同士は、遊び友達なのだろうか?

すると、俺たちの真上をなにかが飛んできた。見上げると、それは、巨大な亀だった。

「マジかよ・・・」

「キングタートスだよ」

 カネドンが言った。俺は、髪が強風で抜けるかと思った。

そのまま、砂浜に降りると、二本足で立ち上がった。

「シギャ~」

 俺は、急いでカメラを向けた。こんな大きな亀なんて、見たことがない。

ビルの八階くらいの高さで、大きな甲羅を背負っている。

亀だから、当たり前だけど・・・

「ピューイ」

 変わった鳴き声が聞こえた。見ると、今度は、緑の芋虫が出てきた。

まんま巨大な芋虫だ。しかも、口から糸を吐いている。

「秀一くん、気を付けてね」

 カネドンに言われて、木の陰に隠れてシャッターを押した。

目の前をうにょうにょしながら、巨大な芋虫が通り過ぎていく。確かに、芋虫だから幼虫なんだろう。

成長すると、巨大な蛾になるらしい。資料を見ると、メスラというが、成虫は見たことがない。

 他にも、まんま縫いぐるみの熊のような子供怪獣が現れた。

「アレは?」

「パドランの子供だよ」

 サイズ的には、5メートルくらいだから、子供怪獣と言っても、俺に比べたら大きい。それに、子供怪獣の共通するのは、何にでも興味津々ということだ。

足元にいる、小さな人間や三匹の怪獣たちを見下ろすと、その場にしゃがみこんでじっと見ている。

「フニャ~」

 なんとなく優しそうな声がした。全身が、真っ白で、まるで白熊だ。

俺は、夢中でシャッターを切り続ける。そして、怪獣たちの案内で、浜を歩きながら島を歩いた。

 海の中から顔を出す竜とか空を飛ぶ怪鳥とか、いろんな怪獣を見ることができた。

そのどれもが、俺たちに興味はあっても、襲われることはなかった。

これも、ゴメラのおかげなのかもしれない。次第に怪獣にも慣れて、いきなり現れても驚くことはなくなった。

それにしても、どれもこれも大きすぎる。まさに、大怪獣という感じだ。

こんなに怪獣がたくさんいるのに、争い事はほとんどなく、それぞれが平和に暮らしている。

たまには、怪獣同士でケンカすることもあるが、相手が死ぬようなことはないらしい。

 俺たちは、一日中、島を歩き回って、洞窟に戻ってきた。

遅めのランチにしようと、カネドンにお湯を沸かしてもらって、カップラーメンを食べようとした。

「秀一くん、魚をもらってきたよ」

 見ると、グースカが両手にたくさんの魚を抱えて持ってきた。

「どうしたんだ?」

「怪獣がくれた」

 取れたてピチピチの新鮮な魚だった。でも、色鮮やかで魚屋では見たことがない魚ばかりだ。

そんな魚に木の枝を突き刺して、焼いて食べることにした。

正直言って、食べるのに勇気がいる。でも、一口食べると、実においしかった。

カネドンやグースカもムシャムシャ食べている。ピグタンは、相変わらず、そこらへんに生えている草を食べていた。

 お腹も一杯になったので、腹ごなしに、再び島の探検に行くことにした。

今度は、山の中に行ってみようと思う。カネドンとグースカが草をかき分けて道を作ってくれる。

それでも、ちょっとした登山だけに、運動不足の俺には、きついものがある。

足元も危ないし、食虫植物も襲ってくるし、危険極まりない。それでも、俺は、楽しくて仕方がない。

なぜかわからないが、つらいのに、それがちっとも苦にはならなかった。

その後、やっと、草をかき分けると、目の前が急に開かれた。

「マジかよ!」

 そこには、巨大怪獣たちが勢揃いしていた。ゴメラもシーゲラスもキングタートスも、グモンガもガマギラス、

メスラの成虫や怪鳥もいた。まさに、怪獣の世界だ。

俺は、草むらに隠れながらシャッターを切り続ける。俺は、大興奮していた。

こんなにわくわくした気持ちになったのは、いつ以来だろう。それくらい興奮していたのだ。

それも、全部が大人の怪獣なので、迫力満点だ。こうして見ると、子供怪獣とのサイズ感が全然違う。

「すごいな、カネドン」

「でしょ、でしょ」

「夢を見ているみたいだよ」

「夢じゃないよ。ホントだよ」

 グースカに言われて、思わず自分の頬っぺたをつねった。もちろん、痛かったので、これは現実なのだ。

いったい、何枚くらい写真を撮ったんだろう? 怪獣の写真集は、余裕で出来るほどだ。帰って整理するのが大変だけど、それが今から楽しみで仕方がない。

明日には、帰らないといけない。正直言って、今は帰りたくない。いつまでもここにいたい。もちろん、そうはいかないことはわかっている。でも、この世界が、俺には魅力的過ぎた。

 洞窟に帰っても、気持ちが全然冷めやらない。俺は、グースカたちを相手に、自分の気持ちをしゃべり続けた。怪獣たちは、俺の話を楽しく聞いてくれた。

「すごいよな。楽しすぎるよ。こんなとこに連れてきてくれて、ホントに感謝だよ」

「そう思ってくれたら、うれしいよ」

「カネドン、グースカ、ピグタン、ホントにありがとな」

 これは、俺の正直な気持ちだった。三匹の怪獣たちには、感謝しかない。

もし、俺一人だったら、いまごろ、とっくに怪獣たちに踏みつぶされていたに違いない。

「なんだか、帰りたくないなぁ・・・」

「やっぱり、そう思うよね」

「もっと、怪獣たちのことを知りたいよ」

「そうだよね。そう思うよね」

 カネドンたちも同じ気持ちらしい。体は小さくても、怪獣は怪獣なのだ。

やっぱり、俺のような人間といるより、怪獣は怪獣同士でいる方がいいのではないかと思う。

俺は、自分の気持ちをわかってほしくて、しゃべり続けた。

その横で、カネドンがお湯を沸かして、カップラーメンを作ってくれている。

ピグタンが、木の実や果物を持ってきてくれた。

俺たちは、早めの夕食を取ることにした。でも、まだまだしゃべり足りない。

もっともっと、怪獣について語りつくしたかった。今の俺の熱い想いをわかってくれるのは、三匹の怪獣たちしかいない。だから、寝ないで話したかった。

「ホント、ゴメラってすごいよな。怪獣の子供って可愛いし、この島って、いいとこだよな」

 俺は、夜も寝ないで語り合いたかった。と言っても、明日は、朝になったら、ラプロスが迎えにくる。

現実に戻らないといけないのが惜しくてたまらない。俺は、ゴメラたちにもお礼が言いたい。

こんなちっぽけな俺を迎え入れてくれて、うれしかった。

今回の調査は、何としてもきちんとまとめてみせる。園長の役に立ちたい。

俺は、資料を見ながら、真っ黒になるまで書き込んだノートを見返しながら、夜を迎えた。


 そして、翌朝、明るくなって洞窟を出ると、そこにラプロスが待っていた。

「もう、帰るのか・・・」

 なんとなく名残惜しくて、心の声が出てしまった。

「秀一くん、荷物を持って帰る支度しなきゃ」

 俺よりも、カネドンたちのがしっかりしてる。

俺は、荷物をリュックに入れて、ラプロスの空いた口の中に入る。

「それじゃ、行くよ」

 グースカが言うと、口が閉じられた。そして、体が浮くと、そのまま飛び立った。

「もっと、いたかったな」

「秀一くん、見てみなよ」

 カネドンに言われて、ラプロスのクチバシの隙間から覗くと、怪獣島の広場に怪獣たちが集まっていた。

「ガオォ~ン」

「ピギュ~」

「グオォ~ン」

 怪獣たちが揃って鳴いている声が聞こえた。

空には、怪鳥の親子が旋回しているのが見えた。

「お~い、元気でなぁ。また、来るからなぁ・・・」

 俺は、クチバシから身を乗り出して手を振って叫んだ。

「秀一くん、危ないよ」

 カネドンとグースカが俺の体を支える。それでも、俺は、髪が風で乱れるのも構わずに手を振って声を上げ続けた。

「またなぁ、みんな元気でなぁ。さよならぁ・・・」

 小さな子供怪獣も見送ってくれた。俺は、知らないうちに泣いていた。

別れがつらいとか、たった2日だったけど、楽しかったこととか、怪獣たちと触れ合ったこととかいろんなことが思い浮かんで、最高の二泊三日だったことを改めて感じていた。

 俺は、ラプロスのクチバシの中で、メモを見たり、撮った写真を見ながら、怪獣たちと熱く語りあかした。

「カネドンもグースカも、ピグタンもありがとな。最高だったよ。ホントに、ありがとう」

「なにを言ってんだよ。秀一くんは、よくやったよ」

「そうだよ、がんばったよ」

「ピグゥ~」

「ホントは、俺といるより、怪獣島で暮らしたいんじゃないの?」

 俺は、カネドンたちのホントの気持ちが知りたくて聞いてみた。

「なにを言ってんの。ぼくたちは、怪獣ランドの従業員だよ。秀一くんたちといる方が楽しいに決まってるじゃん」

「そうだよ。園長もいるし、たくさんのお客さんたちも来るし、子供たちと遊んでる方が楽しいよ」

「ピグゥ~」

 怪獣たちにそう言われて、俺は、無性にうれしくなった。

「そうか・・・ 帰ったら、また、いっしょに遊ぼうな」

「ダメだよ、仕事だよ、仕事」

「そうだったな」

 最後まで、怪獣たちに笑われてしまった。

たくさんの子供怪獣と触れ合って、巨大怪獣たちを間近で見て、怪鳥の口の中で空を飛んで、洞窟で野宿して、見たこともない魚や果物を食べて、無人島を歩き回って、

こんな貴重な経験は、一生の宝になるだろう。帰ったら、みんなに話をしたい。

あんなこと、こんなこと、話すことがあり過ぎる。父さんや母さんは、ビックリするかもしれない。

姉ちゃんにも聞いて欲しい。怪獣ランドの従業員のみんなも写真を見せたら、ビックリするだろう。

そして、園長には、心から感謝して、お礼を言わなきゃいけない。

俺は、気を取り直して、現実の世界に帰って行った。


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