心の隙間を埋める、大人の甘い時間

 専業主婦の愛子は、浮気を繰り返す夫との関係に疲れ果てていました。娘を第一に考え、離婚もできずに苦しい日々を送る中、社会復帰した職場の上司「おじさん」との特別な関係が彼女の心を癒していきます。

 主人公の愛子は、母親としての強さと女性としての弱さを併せ持つ等身大のキャラクターです。家庭での葛藤やおじさんとの安心感が丁寧に描かれ、自然と感情移入していきます。一方「おじさん」は包容力と謎めいた魅力を兼ね備え、愛子の心を満たす不思議な力を持っています。コミカルなタッチで描かれる同僚・葉月とのやり取りや、愛子の姉との温かい関係も物語に彩りを添えています。
 内容は比較的重いテーマを扱っていますが、登場人物たちの生き生きとした描写が、ストレスフリーな読み心地を実現させています。

 そして読者を優しく包み込む軽快な文体。会話が中心の文章にはまるで親友の内緒話を聞いているような親密感があり、率直に描かれる愛子の心情が、彼女の魅力をより際立たせています。

  この作品は、現代の複雑な人間関係の中で自分らしさを取り戻していく女性の物語です。読み終えた後も、愛子とおじさんの関係に思いを馳せる、そんな余韻が残りました。