第4話

 あっという間に兵はいなくなり、攻撃も終わった。


 向こうが観念したところで、私と町で取り決めを行うことになった。


 私としてもこう何回も攻められたら困るので、それが起こらないような案を考えた。


 結局、この町は消えることになった。


 森に囲まれているという利便性の悪い町で、こんな問題が起こるくらいなら町ごとどこかに行った方がいいという結論に至った。


 私が他の妖精たちに連絡を取り、町や国の実権を握る妖精に頼んだところ、受け入れてくれる場所があった。そして、ちゃんと言葉が通じる所だ。森の中という閉鎖的なところで使う言葉だからと心配していたが、偶然にも問題無さそうでよかった。


 文明は同じ程度の発展具合で、そこも問題ない。これ以上ない条件に、町のリーダーとなった人間もご満悦の様子だった。


 そして、これで私はこの森を管理する必要が無くなった。ずっとここにいてもいいが、それはそれでつまらない。自由になれたなら、自由に暮らしてみたいところだ。


「一応人間を守る仕事をしてたのに、殺しちゃって怒られないの?」

「多分。何も言われてないし、むしろやってくれって言われたし」

「それはそれで……」


 事実だし、森を手放していいとも言われている。かなり自由にやらせてもらっている。


「ま、どっかの国で暮らそうかな。一通り観光したら、妖精の世界に帰る」

「そっか……それならさ、一緒に暮らさない?」

「は?」

「引っ越したら一人だし、仕事も見つけないといけない。剣の技術なんて使えないだろうし、家族もいないし、学歴もないし、すぐに死ぬだけだ。だったら、僕が唯一心を許したエーンルアと一緒にいたい」

「それって……告白?」

「……ま、まあ?」


 悪い気はしなかった。従順だし、剣の技術があって、このまま死んでいくには惜しい存在ではある。こいつが死ぬまで養ってやってもいいかな、と思ってしまった。


 人間の情報を持ってきたのも、会談の場を用意したのも、私を自由にさせてくれたのはリアムだ。その褒美を与えなければならない。


 そんな長年の守り神経験で作り上げたプライドを崩せずに、気持ちに正直になれずに、それでもリアムと行くことを納得して決めた。



 誰もいなくなり、廃墟となったあの町は、長い年月の末古代遺跡として発見された。


 でも、どこにもその町についてや森のこと、妖精がいたこと、そんなことは残っていなかった。


 その頃には妖精はこの世界から手を引き、見守るにとどまっている。


 それもあって、もう誰も、ここを知る者はいない。



 ――そんな町の物語。

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森の妖精と悪魔と守り人 月影澪央 @reo_neko

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