第3話
「……そうだとしても、じゃあ何で自分の想いと戦ってるの?」
「人間を殺し回ったら、ここにいる意味がなくなるでしょ」
「どういうこと?」
「私がこの森にいるのは、森を人間から守るため。森を襲う人間がいなくなれば、私の存在意義がなくなる。私が死ぬ。だから、自分が生きるために自分の感情と戦っていた。でも、もういい。恩も知らない人間たちは死んでしまえばいい」
自分が消えようが、種族が変わろうが、人間を殺してやる。
「ちょっと待って。さすがに殺さないで」
「別に君のことは殺さない。今まで護衛の仕事をしていた人間は例外なく殺さない」
「そういう話じゃない。僕だって、人間は嫌いだけど殺したりはしない。他の人間がいるから衣食住があって、生きていけるんだ。殺されたら困る」
「じゃあどうしろと? お前らは危害を加えられるのに、報復も許されないっていうのか? 私たちは神じゃない。心は広くないし、何でもできるわけじゃない。これしかないんだ」
人間ごときにこの解決策がわかるはずがない。
「殺すなら、まずエーンルアを撃った奴らだけ殺そう。そして、町の上の人間に意見を飲ませるんだ。それでダメなら、順番に殺していこう。さすがに、妖精の頼みは何の条件もなしに受け入れるはずだ。そこまで恩知らずじゃない」
「私はそう思わない。だけど、私の考えでも結局全員殺すことになる。それでいいよ」
ちょっとはこいつを信じてあげようと思った。
それからリアムは護衛の仕事に戻り、護衛組織の中では規則がより一層厳しくなった。
私は森の平定に努める。私が人間に危害を加えられたことによって、人間を襲おうとする動物たちもいるからだ。彼らには人を殺してほしくない。逆に狙われたときに無力だからだ。
その裏で準備を始める。
私を撃った奴らの居場所と行動を調べ上げ、どこで殺すべきか考えた。
幸運にも、彼らは私を撃って英雄扱いされているため、居場所が分かりやすかった。
そして殺す場所は、その英雄を称える式典。
彼らが壇上に上がったところで、殺せばいい。人間への見せしめと、要求を飲ませるためのステージとなる。
もう気は抜かない。
そして決行の日。
リアムから提案を受けたが、リアムのためにも行動するのは私だけだ。
式典会場近くの建物の屋上からその様子を見守る。
守り神とも言える私を殺しかけて称賛されるとはなんという侮辱か。まだ始まってもいないのに、怒りが湧いてくる。
少しして、彼らが壇上に上がる。いよいよその時が来た。
今日は森の悪魔も連れてきた。悪魔と一緒に、この人間を処刑する。
実は、私をここに産み落とした『ママ』という人からも、処刑の許可は取った。私の見立てでは、この人が神なのかと思っている。何でもいいが、とにかくこの人間を処刑することは合法だ。
「行くぞ……」
その場で立ち上がり、両腕を広げる。そして何か筒を持つように手を動かし、その筒を思いっきり振り落とす。
その瞬間、空から雷撃のようなものが降り注ぎ、私を撃った奴らが一瞬で息途絶えた。
会場からは悲鳴が聞こえる。
その悲鳴を合図に飛び上がり、死体を踏みつけるようにしてステージ上に立つ。
「我は森の妖精なり。また、こいつらに銃弾を撃ち込まれた者だ」
そう言いながら、魔法で治していた目の部分を元に戻し、大量の血を流しながら民衆に見せつける。
ずっと血を流すわけにもいかないので、すぐに治した状態に戻したが。
「森の守り神たる我を殺そうとした罪は重い。死刑以上の重さだ」
民衆は静かに話を聞く。
「そして、この者のように森を荒らす人間が非常に多い。昔のような敬意の欠片もない人間が増えて、悪魔が怒っている。私も同感である。よって、ここで要求する。これより、森やそこに住む生物に危害を加えた者は問答無用で殺す。私は一切助けないし、悪魔は完全な致命傷を与える。守るのは護衛官だけだ」
私のことを本当に森の妖精だと信じているのかわからないが、さっきのを見てからこう言われれば、信じてなくても従わざるを得ないだろう。
「もしこれでも続くようなら、政府高官か、今まで散々森に危害を加えてきた奴らを順番に殺してやる」
そう言い残して、今日はその場を去った。
さっきのを見ていた民たちはそれを信じたようだったが、そもそも森を通るような身分の奴がわざわざこんな式典を見ているはずがなく、政府高官たちは信じるわけがなく、結局それは終わらなかった。
そしていざ人間を殺しに行こうと思ったその時、リアムがある情報を持ってきた。それは、私を狙って軍が向かっているとのことだった。かつてはこの森で生計を立て、この森から去っていった貴族たちが、武力で対抗しようとしている。
「どうするの?」
「心配することはないし、君は関わらない方がいい。自分の身を守るように立ち回ればいい」
「大丈夫なの?」
「ここは私のフィールドだよ? 負けるはずがない」
「そういう時こそ痛い目に遭うから、気を付けてね」
「わかってる。ありがとうね」
リアムを長居させるわけにはいかないので、報告を聞いたらすぐに帰した。
翌日、森を通る人間がいなくなった。これが嵐の前の静寂といったところか。
そしてその数日後、侵攻が始まった。
森の入り口ではっきりと私を殺すと宣言してくれたおかげで、何の迷いもなく兵隊を殺すことができる。
人間がそういう風に動いたことには期待を裏切られた気分だ。でも予想はしていた。どうせ勝ち目なんてないのに、たったあの一回不意を突いて怪我をさせただけなのに、勝てると勘違いしているようだ。結局あの傷はもう跡形もなく無くなっているわけだし、私を殺すことはできない。
殺すといったのに向かってくるということは、殺していいということだろう。
その考えの元、森に入ってきた兵隊たちを一瞬で消し去る。
動かずとも森の中ならどこでも魔法が発動できるので、体に害はない。
だが数が多く、私の元までたどり着く人間もいるかもしれないと思い、そちらにも気を向けておく。
その甲斐あって、不意打ちを狙ったであろう銃弾は魔法で全て防いだ。
「な……」
「そんな馬鹿な……」
姿が見えた人間がそう呟く。
「何で逆に勝てると思ったんだか。人間の持つ技術は、魔法の前では無力だ。しかも、一回受けた攻撃、魔法でもなければ当たり前に防げる。人間は愚かだ。誰のおかげでここに町ができて、人間が暮らしていけるんだか」
私からすれば、森よりも森の外の方が危険だと言える。何もしなくてもモンスターに襲われるし、町に着いたって言葉が通じるかもわからない。
少なくとも外の危険から守っているのはこの森だと思う。
そう愚痴を漏らしたところで、彼らも同様に消し去った。
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