【KAC20253】電車停止の妖精

XX

電車通勤はこれが怖い

『お急ぎの方申し訳ございませんー。ただいま本線の別車両でお客様の急病により電車の停車が発生しましたー』


 通勤中に急に電車が停まって。

 何事かと思ったら。


 そんな車内アナウンスが流れて来た。

 オイオイマジかよ。


 同じ路線の別車両が乗客の急病で停車して。

 その影響でこの電車も停まったらしい。


 そう思っていたんだけどさ。

 幸い、10分くらい経った後、無事電車が動き出して。


 俺は会社に遅刻せずに済んでホッとした。


 ただ。

 前に立ってたオッサンが


「チッ。急病起こすような奴が電車に乗るなクソが迷惑な」


「死ね」


「呪いを掛けたからな」


 ……そんなことをブツブツ言ってて。

 ちと気分が悪かった。


 そりゃ電車が停まるのは予定が狂うわけだから腹立つのは分かるけどさ、

 そんな言い方無いだろ。


 満員電車で気が立ってるのも分かるけどさ。

 病気になるのは本人のせいじゃないんだし。




 そして数日後。


 また、電車が停まった。


 ……原因は


「うわあああああああ!! 来るなぁぁぁぁぁ!!」


 ……満員電車で。

 鞄から工作用の鋏を取り出して暴れるオッサンが出現したせいだ。


 何かに怯え、目を瞑って鋏を振り回している。


 重ねて言う。

 満員電車の中でだ。


「ひ、非常ボタンを押せ!」


「キ〇〇イだ!」


 周り大慌て。


 鉄道の職員さんが無線を使いまくってる。


 ……そして近場の駅に停まり。

 そのオッサンは鉄道の職員さんに引っ張られて連れて行かれた。


 ……結果として。

 電車は30分遅れて、その日の俺の会社の遅刻が決定された。


 ……くそが!


 ヤベエ麻薬ヤクでもキメて電車に乗ったのかクズが!


 死ね!


 氏ねじゃなく死ね!


 あまりにも理不尽で許せない出来事だったので、俺は心で本気であのオッサンを呪った。

 マジで地獄に堕ちろ!




 そしてさらに数日後。


 また満員電車で……


 俺は吊革に掴まりながら電車に揺られているときに


 妙なものを見つけた。


 電車の外に……変なもの居たんだ。


 それは小人だった。

 背中に蟲の羽根を生やした、妖精のような姿の。


 ギョッとした。


 ……最近忙しかったけど、疲れているのか?

 目を擦った。


 だけどその妖精は消えない。


 妖精は、フルスピードで走っているこの電車について来ていて。

 相当な速さで飛んでいるのが分かった。


 妖精の性別は女で、髪は長く……

 黒いドレスのような衣装を身に着けていた。


 ……そして顔が見えなかった。

 少し先行していたので


 で……


 何故か「顔を見てはいけない」という気持ちが湧いた。

 理由は分からない。


 そんな気がしたんだ。


 そこでふと、数日前のオッサンが脳裏に蘇った。


 ひょっとしたらあのオッサン、これを見ていたんじゃ無いのか?

 色々結びついた。


 顔を覚えてはいないけど。


 ひょっとしたらあのオッサン、急病人を呪った心の狭いオッサン本人だったのかも……


 あの妖精はそういう電車の遅延で他者の死を願った人間の前に現れる、死の妖精……?


 何故だか、そういう思考に至った。


 恐る恐る、あの妖精に視線を向ける。

 顔を見ないように、ゆっくりと。

 探した。


 するとあの妖精は……


 車内に入って来ていた。


 俺の前に浮いていて


 背を向けている。


 ……ゾッとした。

 こいつ、俺を狙ってる……!


 そんな……!

 流石にあれは呪うだろ!

 あの状況でオッサンを呪わないなんて不可能だ!


 理不尽……


 理不尽だろ!


 そう、自分が置かれたこの状況に俺が凍り付き、嘆きの言葉を並べ立てていたら


 その妖精が


 ゆっくりと


 振り向いて……


「うわあああああああああ!!」


 そして俺たちは全員目を瞑り、悲鳴を上げた。


 ……いや、君らもかい!

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【KAC20253】電車停止の妖精 XX @yamakawauminosuke

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