森の妖精

敷知遠江守

妖精に会いに

 俺たちはユーチューバー。

 親友と二人で不思議に会える場所に行ってみたという動画を毎週アップしている。


 初回にアップしたのは遠野。やはりこの手の企画では河童で有名な遠野は外せないだろう。

 撮影するにあたり、二人でを決めて、なるべく臨場感が出るようにちょっとした台本を作成。


「おい! 今の撮れた? え? 何で撮れてないんだよ! 今、あそこで何かが動いたんだよ!」


 こんな感じ。

 もちろん何も動いてない。見える人だけ見えるという事にする。そうするとなぜかコメントに「何分何秒のところの黒い影、何?」みたいなコメントが勝手に付いてくれる。


 単なる観光スポットの撮影にならないようにするためには、カメラワークも大切だと親友は言う。

 狭い道を走る時にはなるべく崖ギリギリに車を寄せる。


「うおお! 怖えええ! これ、マジ落ちたら死ぬぜ!」


 こんな感じ。

 助手席側はかなり余裕があっても、車が落ちそうなところを走って現地に向かったというが重要。


 そんなこんなで、数々のが功を奏し、順調にフォロアーを増やしに増やし、収益も順調に増えている。さらにここに行って欲しいというリクエストも来るようになった。


 今回、そんなリクエストの中の一つに俺たちは行く事にした。

 詳しい場所は言えないが、とある県の鬱蒼とした森の中。そこで森の妖精を見たという人が後を絶たないらしい。

 俺たちは迷惑系ではない。ちゃんと事前に地権者に連絡し許可を取得している。その地権者の方には顔を出さないという条件でその場所の言われを語ってもらうようにしている。この地元の訛の入った話というのが視聴者に人気なのだ。


 地権者のおじさんは、ここは江戸時代から妖精の目撃例があるんだ、だから小さい神社が建っているんだ、なんてもっともらしく語ってくれた。


 鬱蒼とした森を突き進むおじさんと俺たち。わざわざぬかるみで足を踏み外して転ぶ演出を挟んで臨場感を高めていく。


 かなり進んだところで地権者のおじさんは立ち止まった。

 「この辺で」とおじさんが言ったすぐ後の事だった。


「トリの降臨!」


 突如現れた変な梟を、おじさんは妖精だと呼んだ。

だが……


「こんな映像使えねえよ……」


 ガッカリした顔で親友は呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

森の妖精 敷知遠江守 @Fuchi_Ensyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ