おひなさまクエスト3。『お雛様』の罠

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

『お雛様』の罠

(本作は前作『おひなさまクエスト2。ドラゴンへの凸凹道』の続編となっております。)

https://kakuyomu.jp/works/16818622170588084559/episodes/16818622170588694425



 オアシス連邦共和国を構成する共和国の一つリヤク。リヤク共和国の首都リヤクからやや離れた砂漠にヨーイドン、コマチ・ネネ、モッコの3人はたどり着いた。


「さあて、トリ小屋は街から遠からず近からずのここでよかばい。糞の処理もおいの土魔法で砂漠に吸収させれば問題なかと」


 ドワーフ王子のヨーイドンはすでに『お雛様』のために超速乾性のセメントもどきのマジック・泥成土ドロナルドで建造物を建てていた。


「アレをトリ小屋ごやと言うのか!」


 ジャイアン・ゴーレムの石材も再利用して建てたそれは、トリ小屋ごやと言うにはあまりにも巨大。まるでパルテノン神殿🏛️のような大建築であった。


「流石はヨーイドンじゃ。エサはわらわ収納すとれーじに先ほどのコカトリスのナゲットやら、肉やらがあるからそれで良かろう」


「足りんかったらモッコの尻尾をば『お雛様』のエサにしたらいかんと?」


「ダメにきまっとるわ! 俺はトリのエサじゃねえ!」


「そうじゃ、とんでもないぞヨーイドン!」


「コマネチねえさん、アンタがそれを言うか……」


「コマネチは白い妖精の名前、妾はコマチ・ネネじゃ」


「お、おう。すまん」


「『お雛様』がかべちょろの毒に当たらば、いとわろし」


「それもそうたい」


「おいこらお前ら!」


「冗談はさておき、これだけデカいトリ小屋を建てたから、直に街からお客さんが来るとよ」


 砂漠の彼方から砂煙をあげてラクダ🐪に乗った一団が向かってきた。


「誰だ! 我がリヤク共和国にこんな不法建築物を無許可で建てたのは!」


 赤いチェックのターバンに白いカンドゥーラという砂漠の民らしい民族衣装を着た狐獣人たちによる警備隊だった。


「おう、いいところにきたばい! おいたちはA級冒険者パーティーQPs(キューピーズ)たい!」


「なんてことだ! 今日は厄日なのか!」


 警備隊の隊長はジト目で空を仰いだ。


 QPs(キューピーズ)はその可愛らしい名前と裏腹に、冒険者ギルドや軍関係者からは非常に恐れられていた。


 小国とはいえアラクネ王国の女王でもある『魔糸使い』コマチ・ネネ・ネイサン。ドワーフ王国の王子で『雷神』の異名を持つヨーイドン・フトカ・マウントバッテン。ドラゴニュート王国の王子で『究極アルティメット爬虫類レピタイル』のモッコ・ド=アラゴン。QueenとPrinceが複数いることから名乗ったパーティー名がQPs(キューピーズ)。


 全員が威張ることはないが、王族であることを隠しもしなかった。つまり下手をすれば外交問題になりかねない地雷案件だ。しかしながら、皆が皆とんでもない実力者であった。彼らは故意からではなく、しばしば大きなトラブルに巻き込まれた。そして、しばしば暴走してその被害を拡大させてきた。はっきり言っていい迷惑だが、その身分と実力から彼らを止めることは誰もできない。しかも事件解決の最大の功労者も彼らであったりするので、みなあまり露骨な文句も言えず、言ったところで何をどうすることもできなかった。


「それで、この建物はいったいなんなのですか」


 意を決して狐獣人の隊長が尋ねた。


「コレはトリ小屋たい」


「はあ?」


「おいたちはロック鳥に乗って天空竜の城に行こうと思うとるばい。ほんで『お雛様』ば捕まえてテイムしたとよ。この『お雛様』はおいたちのペットたい」


「し、信じられないです!『雛祭り』で『お雛様』を討伐じゃなくて生け捕りにしたと言うのですか! そんな話生まれてこのかた聞いたこともない!」


「そういやあ、俺も聞いたことないなあ」


「妾もここ300年ほどは聞いてないのう」


「『お雛様」なら奥で寝とるばってん、起こした方がよかと?」


「いや、起こさなくて良いですから確認だけさせていただきましょう」


「「「どうぞ、どうぞ」」」


 狐獣人隊長が建物の奥をそうっと覗き込むと、そこには紛れもなく寝息を立てている黄色い『お雛様』の巨体があった。


「本当にここに『お雛様』がいるとは! だが、ここでこんな物騒な魔物の飼育許可なんて出せませんぞ!」


「ほう、それは困ったのう。ではここで飼うのは諦めるとするぞよ」


「「え?」」


 ヨーイドンとモッコが驚いて目を見張る。


「ほっ。それがよいですな。もっと他のところで飼育なさった方がよろしいでしょう」


 狐獣人隊長は安堵あんどの表情を浮かべた。


「お主、勘違いをしているようじゃが、本当に妾たちがのだな?」


「それはどう言う意味ですか?」


「しからば、妾は『お雛様』を放鳥りりーすするぞよ」


「なんですと!」


「なるほど。飼うなってんだから、当然そうなるぜ。可哀想に飼い主に捨てられた『お雛様』は野生に戻るしかないな」


「なに!」


「したらば『お雛様』も生きるためにゃ食わなきゃならんとよ。リヤクの街に出入りする隊商キャラバンを襲うかもしれんたい。恐ろしか〜」


「くそっ! なんてことを!」


「あるいはエサを求めてリヤクの街を荒らすことになるやも知れぬ。まあ、飼い主ではのうなった妾の知ったことではないわ。誰ぞ『雛祭り』にきてくれればよいのう。さあ、いかがせむ?」


「くそっ、なんて狡猾な」


「隊長! どうするんですか! 彼らの言う通りです! あんな危険な魔物を野放しにさせるんですか!」


「そうですよ! リヤクの街に被害が出たらどう責任取るんですか!」


「ほっほっほ。お主の部下の方が状況を分かっておるようだのう」


「……分かりました。ここでの『お雛様』の飼育を認めましょう。上の連中にもわたしから状況を説明して納得させます。これでよろしいですか?」


 狐獣人隊長はガックリと肩をおとして言った。


「うむ。よきにはからえ」


「その代わり逃げ出して人を襲わないようにきちんと責任もって飼ってくださいね。いいですね。約束ですよ!」


「うむ。任されよ」


 狐獣人の警備隊はラクダ🐪に乗ってリヤクに帰っていった。








ギイイイイイイ ゴオオオオオオ

ギイイイイイイ ゴオオオオオオ


「おや『お雛様』の目が覚めたばい」


「腹が減ったんじゃないのか」


「であろうの。そら、コカトリスを食べるがよろし」


 コマチ・ネネが収納ストレージからコカトリスを取り出して『お雛様』に与えた……のだが……











「くそっ! なんてこった! 『お雛様」の食欲がここまで凄まじいなんて! 完全に想定外だ!」」


「コカトリスがすっかりのうなってしもうたばい。おいもこぎゃんこつになるとは思わんやったと」


「モッコもヨーイドンもおのれを責めるでない。わらわにも思いもよらなんだたぞよ。いとあさまし」




「あしたのエサ、いったいどうすんだよ!」

「あすのエサをばいかがはせむ」

「あしたからのエサ代をばどぎゃんすっと!」




 3人は同時に異口同音にぼやいていた。


「買ってくるにしても、獲ってくるにしても大変だぞこりゃ」


「買うなら買うでどのくらいのエサ代がかかることやら。足りなば借りるしかないのう」


「これがずっと続くたい。『お雛様』が成鳥になって降臨する前に借金トリの降臨がありそうばい」


「「「はあああああああっ」」」


 頭を抱えた三人のため息が重なった。


 巨大な怪鳥ロック鳥のヒナである『おひな様』のテイムという難易度極まるミッションに成功したA級冒険者パーティーQPs(キューピーズ)だが、三人はパーティー結成以来の最大の危機に直面していた。



『おひなさまクエスト4。大統領登場!』につづきます。

https://kakuyomu.jp/works/16818622171036884922/episodes/16818622171041187177



おまけ


ヨーイドンのイラストはコチラ

https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16818622170455557686


モッコのイラストはコチラ

https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16818622170518015585


コマチ・ネネのイラストはコチラ

https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16818622170664038837


(New!)お雛様とQPsの三人と恐竜の大きさの比較イラストはコチラ

https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16818622170893699439

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