あなたに伝えたい言葉がある

春野 セイ

愛しています



(うわ出た! トリの降臨!)


 あたしのファンクラブの握手会に必ず現れる。トリが降臨した。なぜか彼は必ずトリにいる。トリと握手した時、手の中に何かが挟まる。ハッとすると、トリはいなくなっていた。

 誰もいなくなった握手会で、あたしは受け取った手紙を開く。



 拝啓

 聞こえるだろうか。耳をすませて法螺ほら、君の吐息が。はあーっ。息をしているね。群れとなって性格せいかくにあっちへ行ったり、こっちへ行ったり、どこへ行くんだい? あっと思えば、方向を変えていつの間にか後ろを向いている。大きなうねりが、ウェーブとなって押し寄せてくる。おっと、危なかった。あやうく君とぶつかるところだったね。君とそのユニークな動きはどっちへ行こうとしているの? ボクの唇をなぞるやわらかい人さし指で、そうじゃなくて、もっと下だよ。ボクの喉を伝って、喉ぼとけを突こうとしているね。どんないとがあってそんなことを? ああ、君を見るたびに官舎かんしゃしているんだ。無数の君が、たゆたう君がここにいる。あっちからきて、ねえ、こっちからは、おいでと手招きするんだ。あっ、今、真ん中からうねうねと君が古紙こしを振りながらボクのほうへ近づいて来たね。そして、寸でのところでボクを避けるんだ。なんて、罪つくりなんだ。そうやってくちびるを尖らせて、そのあどけない丸い目で、おっと? 今度は上から迫って来たよ。脅かさないでくれるかな、ボクの心臓がいくつあっても足りないじゃないか。ああ、急に矛先が変わった。今までぬるま湯につかって気持ちがよかったのに、急に熱いマグマのような熱を感じる。感じるのは黄身きみだけなんだ。ボクをこんなにも興奮させるのは、ああ、感じすぎて、息ができない。溺れる。溺れてしまう。いや、溺れている。もがくボクに手を差し伸べてくれ。君のその白魚の手で差し伸べてくれないだろうか。ああ、あいしてるよ。

                            敬具


 うわあ~……。

 痛い。痛い手紙をもらって、心が痛い。

 あたしがうんうん唸っていると、マネージャーが背後からあたしの手紙を覗き込み、それをさっと奪った。


「誤字が多いですね」

「うん」

「それにしても……」


 マネージャーが呟く。


「いつ見ても美しいとしか言えない文字ですね。あこがれます」

「そうか?」

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あなたに伝えたい言葉がある 春野 セイ @harunosei

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