第32話 世界を変える
恕安が少尉に禁じていた太平洋戦争を教えたのには理由があった。
アメリカの歴史も変えたいと思ったからだという。
恕安の父も祖父も居留地で育っている。
居留地とはアメリカ先住民を囚人のように収容した土地だ。
武力により先住民から土地を奪い、生き残った者を強制移住させたのだ。
部族による連帯を阻止する狙いもあった。
強制的に移住させられた土地でさえ、金鉱が発見されると取り上げられたそうだ。
不毛の地に追いやられ、ほとんどの部族が絶滅したらしい。
現在もろくな仕事もなく、国から支援を受けているが、部族、血統濃度、居住の場所によって違うそうだ。
「宗瑞さんは気に食わないから歴史を変えるといいました。わたしも同じです」
「少し待ってくれ。日の本を片付けてからだ」
最初は断った宗端であったが、江戸の町がアメリカの空襲により焼け野原になることを知り、やる気になった。
「やられる前にやると言うのは戦の定法ではあります」
少尉は日本が負けたことを憤慨していたが、国力の違いはわかっていたのだ。
先生もお嬢も黒船来襲によるアメリカの強引なやり方を知っている。
全員恕安に同意した。
僕らは明治を模した天皇を中心とした国家体制を構築した。
キリスト教の禁教や鎖国はしていない。
植民地化を狙う諸外国は、日本の進んだ文明に脅威を感じ交易に重点を置いた政策を取ったからだ。
戦のない世を人々は受容し、歴史と全く違う日本が誕生した。
もしかしたら、僕たちのタイムスリップは歴史を変えるためのものだったかもしれない。
なぜなら僕の後に来た者がいないのだ。
六十年に一度なのだから、2060年より1640年に来るはずなのだが、どんなに探しても見つける事はできなかった。
元禄四年(1691年)二月 ──
僕らは恕安の願いを実行に移した。
六隻の軍船が横須賀港を船出した。
総勢千六百の兵士と嫁荷を積んだ軍船は、ベーリング海を経由しアメリカの西海岸を目指すのだ。
サンフランシスコにスペイン軍の砦が築かれるのが、1770年代のことなので先に押さえてしまおうというわけだ。
「世界を変るてえのも、面白そうじゃねえか。なんせ俺らはバケモノだ。時間はいくらでもあらぁ。五色の旗をぶっ立ててアメリカって国に派手に乗り込もうぜ」
宗瑞は、百年前と同じ顔で笑っていた。
7×60 新皇になった僕は戦に明け暮れる ポテ吉 @0333sakura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます