ひな祭り【KAC20251】

郷野すみれ

第1話

 暗い、天井が開いて明るい光の矢が降り注いだ。


「今年はどこに置こうか?」


「そっちにテーブルを用意してー……」


 自分たちを買った人間たちが動いている。


「ふわあ〜、眩しいっ!」


「お久しぶりですなあ」


 お内裏さまとお雛様は、そう言葉を交わす。


「もう! 身体が鈍っちゃったじゃないの!」


「かと言って私たちが動けるわけでもあるまい」


「ええ。この重い、忌々しい十二単のせいでね」


「そうではなく……。まあ、いいか」


 奥から髪がおかっぱの女児が歩いてくる。


「あら! 娘ちゃん! 可愛いわねえ。大きくなったこと」


「ほぼ一年ぶりだものな」


 まるで親戚のおじさん、おばさんのような反応を示し、目を細める。いや、目はもともと細いのだけれど。


 自分たちは、まんまるの目をキラキラさせてこちらを見てくる女児のために買われたことを理解している。


「ほら、指紋がつくから触らないの」


「はーい」


 母親に女児が引き剥がされた。


「ずいぶん聞き分けが良くなったわねえ」


「去年は焦ったな」


 去年を回想し、ふふっと笑い合う。


 触ってはダメだというのに、諦めきれなかったのか、大人の目がない隙を見計らって、ガラス扉を開けてきたのだ。


 手が伸びてきて、前にいる三人官女を飛び越え、自分たちにまっすぐ手が伸びてきた。


 幸い、その瞬間に大人が来て、女児がしまった、という顔をして泣き始めた以外には何事もなかった。


 今年は窓の側に置かれた。そのため、外の景色がよく見える。


「はあ。外の景色なんて何年ぶりかしら」


「君はどちらにしても待つ側だろう」


「ええ、そうね。あなたが会いに来てくれるのでしょう?」




 春の日差しが窓から注ぎ込む。


 トリの降臨。


 窓ガラス越しに雀がやって来た。


「あれ、見慣れない奴らだなあ、人かと思って逃げようとしたが、人にしては小さいな」


「嘘、意思疎通ができるですって……⁈」


「うちらのことを認識しはったんですか。しゃあないなあ」


「あなた、なんで関西弁になっているのよ!」


「うちらは京都周辺の出身やからなあ」


「私たちの配置は関東だけれどね」


「あの、テレビとやらに出ている人間の話し方を真似しているだけやねん」


「うわ、なんかよくわからないこと言ってる。人間らしきもの五人中二人しか話さないのか。いやー、今年は寒かったし雪がすごかったんだぞ」


「そうなの? 今は暖かいけれど……」


「君らもそのうち見られるさ。やべ、人間来た」


 そうして雀は飛び去っていった。


 今日は、今年出されてから初めてカレンダーがめくられ、数日経っている。


 家の中から箱の音がガサゴソいう。


「あと一年会えないんだね」


 しまう用意をしている両親より先に来た女児が、別れを惜しむ。


「はあ……。あと一年近くまた臭くて暗い所に置かれるのね」


「しゃあなしやなあ」


 この次見るときは、女児は少女になっているかもしれない。


 周りが暗くなり、最後に天井も暗くなる。


「またね」

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ひな祭り【KAC20251】 郷野すみれ @satono_sumire

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