ひな壇
草森ゆき
ひな壇
「やっと三日の夜になったなあ、お雛ちゃん」
「やっと三日の夜になったねえ、お内裏ちゃん」
「いやほんまさあ、世間の人て雛人形出すんもひなまつりアピールすんのも早すぎひん?」
「まあ〜、バレンタイン終わった思たらひなまつり一色やもんねえ」
「せやろせやろ。僕とお雛ちゃんはそら今の時期やないと出番ないけどもやな」
「まあ〜、こうやって飾られてひなまつりの歌流してもろてって、めっちゃ丁重に扱ってもろてるもんねえ」
「ひなまつりの歌! お雛ちゃん、僕ら雛人形を見に来た愛すべきキッズたちがさあ、いろいろ変な替え歌を歌ってへんかった?」
「ああ〜、歌ってたねえ……あかりをつけましょぼんぼりに……」
「ドカンと一発ハゲ頭」
「一文字も合うてへん替え歌やねえ」
「五人囃子に殺されて」
「流行りのデスゲームやねえ」
「今日は楽しいお葬式」
「子供ってなんで残酷にしたがるんやろねえ」
「いやほんまやで。残酷童話な替え歌、他にもいろいろあったやん?」
「あったねえ。あかりをつけましょ爆弾に……の始まりもあったわあ」
「お花をあげましょ毒の花……もあったよな」
「ひなまつりのことスプラッタカーニバルやと思てるんやねえ」
「あかりをつけましょ消えちゃった、お花をあげましょ枯れちゃった、五人囃子が死んじゃった、今日は悲しいお葬式」
「紛うことなきディストピアやねえ」
「だいたいお葬式にはなるみたいやな」
「お花いっぱい飾ったりするからちょっと似てるかもしれんけどねえ〜」
「せやけどお雛ちゃん、スプラッタでディストピアでお葬式なひなまつりも今日で終わりやからな。この夜を越えたら僕らはまた暗〜〜い押し入れの中で一年くらいおやすみや、樟脳に包まれながらええ夢見て休もうや」
「明日からの世間は何一色になるんやろねえ」
「決まってるやん」
「何〜?」
「売れ残りひなあられの特売一色や」
「物価高、世知辛いねえ〜」
****
職場であるスーパーにて飾っていた雛人形を片付けようとしたところ、こんな感じでお内裏様とお雛様が雑談を交わしており中々近付くことが出来なかった。
下の段にいる五人囃子や三人官女は雑談にこそ混じっていなかったが、二人の話には時折笑い声をあげてのっぺりと微笑んでいた。手元の太鼓もトントン叩くなどしていた。
夜中の暗いスーパーの中だが、そこにはたしかな盛り上がりがあった。バラエティ番組のスタジオ内トークコーナーのようでもあって楽しかった。消えていないぼんぼりが暖かな色合いでゆるやかに回り、毒ではない桃の花が全身に光を浴びる様子は雅で美しかった。
見ているうちに段々と、ひなまつりセットを片付ける気がなくなっていった。
人形たちは仲が良いし、五人囃子に殺されたりハゲ頭がドカンと爆発したりはしない。あそこで行われているのはお葬式ではなく慰労会やらお疲れ様会のようなものなのだと私にもわかった。
売れ残りひなあられを積んだ特売品置き場の影に隠れ、人形たちを眺め続けた。ひなまつりのお仕事ご苦労様でしたと心の中だけで話し掛けながら、ひとりひっそりと眺め続けた。
ひな壇 草森ゆき @kusakuitai
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