秘密の会合

『うらやましいわねえ』


 行ってしまったいとし子の姿を追って体勢を崩していると、隣のひながしみじみとした様子で言葉をこぼした。


『あなたはずっと、あの子が好きね。それだけ熱烈だと、あの子がうらやましくなるわねえ』

『それはお前もだろう』


 ひなに返すと、下段から『我らもですぞ!』とやんややんやとうるさい声が届く。ひなは一つ頷いた。


『ええ。赤ん坊のころから見てきたもの。わたくしたちの大事ないとし子だもの。あんなに大きくなったのね』

『私も同じ気持ちだよ』

『そうね、わたくしとおしゃべりするよりも、あの子の寝顔を見守るほうが好きだったもの』

『それも、お前もだろう』

『あら。わたくしはあの子の気持ちを汲み取って、朝になったらあの子が置いた位置に戻っていたもの。あの子が起きてくる時間を見誤って、毎朝元の位置に戻れなかった誰かと違ってね』


 ほほほと扇で顔を隠すひなに、まいったなあとかぶりを振ると、下から官女や囃子どもの笑い声が響いてくる。


『ははは! 主は相変わらずだ』

『いつまでも姫に弱いこと!』

『ああやかましい、やかましい』


 少しは静かにしてくれないか。私の願いは笑い声にかき消される。

 ひなは『しょうがない人』と言って、私を促した。


『さあさあ、今日こそあの子が戻ってくるまでには元の位置に戻りましょうね』

『もちろんだとも』


 いとし子が飾ってくれる機会もしばらくはないかもしれないのだ。きちんと役目は果たそうぞ。

 我らがいとし子。よく大きくなったな。

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おだいりさまの秘密 一途彩士 @beniaya

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