ずっと、隣にいましょうね。

珠邑ミト

ずっと、隣にいましょうね。


 ねぇ。

 わたしたち、たまたま同じ日に、同じ産院で生まれたわね。

 あなたは午前十時の執刀で、わたしは十二時の執刀で。

 お母さんたち、お腹を焼き切られて、生まれて来られたわね。


 あなたのお母さんは、今もお元気で。

 でも、わたしのお母さんは、出血がすごくて、助からなくて。


 運命って、残酷よね。


 三月三日のひなまつり。

 あなたは、男の子だから、周りに揶揄われるって、いつも怒ってたよね。

 わたしは女の子の日だから、女の子らしい日でよかったねってみんなに言われたけれど、お母さんが亡くなった日でもあるから、お雛さまは飾られなかったの。

 おばあちゃんも、わたしのことが嫌いだったみたい。

 わたしのせいで、お母さんが亡くなってしまったから。

 もちろん、お父さんも。


 ねぇ。

 同じ小学校に通って、やっぱり同じ中学校に通って、でも高校は違うところになって、そのあとあなたは都会の大学へ進学して、わたしは地元の食肉加工の会社の事務で就職して。


 お母さんのお肉も、こんな風に切り分けられたのかな。

 そして、血がいっぱい出て、助からなかったのかな。


 ねぇ。

 あなた。

 小学生のとき、わたしのこと、知ってて無視してたでしょ。

 同じ日に、同じ病院で、同じ先生にお母さんのおなかを切り裂いてもらった、一緒に生まれた同士だって、知ってたでしょ。


 でも、あなた、時々ちらちら、わたしのこと、見てたでしょ。


 周りの子達よりも発育がよかったけど、お父さんはわたしのことをほったらかしだったせいで、下着を買ってもらえなくて、あなた、ちらちらとわたしの胸を見てたよね。

 汚れても買いかえてもらえない、運動着のことを、嗤って見てたよね。


 わたしも、ずっとあなたのことを見てたんだよ。

 だって、一緒に生まれたんだもの。


 ねぇ。

 知ってる?

 お雛さまって、結婚式のことなんだよ。

 結婚って、ずっと一緒にいるよってことなんだよ。

 一緒に、同じ日に生まれたのに、



 お前だけ母さんが生きてて進学出来て就職もいいとこに出来て都会に住んでお金があって旅行もできて遊びにいけて親に図々しく文句言えて恋人もとっかえひっかえできて、



 なんだお前。

 お前だけなんでそんな恵まれてんだよおかしいだろ。


 だから。

 これからはずっと一緒だよ。

 その椅子、そのまま垂れ流してもいいように作ってあるからよ。

 手錠?

 外してやるわけねぇだろ。


 一生だ。

 生まれたときが一緒なんだから、死ぬときも一緒に決まってるだろうが。


 ねぇ。

 ずっと、隣にいましょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ずっと、隣にいましょうね。 珠邑ミト @mitotamamura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ