第3話
鯨井は、薄暗い研究室の隅で、荒い息をついていた。彼の顔は青ざめ、額には脂汗が浮かんでいる。かつて彼を覆っていた冷徹なオーラは消え失せ、そこには疲弊しきった男の姿があった。
「くっ…」
鯨井は、胸を押さえ、苦しげに呻いた。彼の体内では、鯨鯢との接続による侵食が、彼の精神と肉体を蝕んでいた。
そこへ、鷹山が研究室に踏み込んでくる。彼の表情は、鯨井に対する憎しみと、哀れみが入り混じっていた。
「鷹山、おまえ死んだはずじゃ!?」
「自分でもビックリだ。鯨井…お前は、一体何をしようとしているんだ?」
鷹山の問いかけに、鯨井は、嘲笑を浮かべた。
「何を、だと?…お前こそ、何を言っているんだ?…私は、ただ、この世界を…変えようとしているだけだ」
鯨井の声は、弱々しく震えていた。
「変える?…お前は、ただ破壊しているだけだ。…お前は、もう、昔の鯨井ではない。…お前は、鯨鯢に、心を奪われたんだ」
鷹山の言葉に、鯨井は、激しく動揺した。
「違う!…私は、私だ!…私は、まだ…」
鯨井は、言葉を続けることができなかった。彼の体は、痙攣し、苦悶の表情を浮かべた。
「鯨井…」
鷹山は、鯨井に近づき、その肩に手を置いた。
「もう、やめるんだ。…お前は、間違っている」
鷹山の言葉に、鯨井は、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、かつての冷酷さはなく、深い悲しみと後悔の色が浮かんでいた。
「鷹山…私は…」
鯨井は、何かを言いかけたが、その言葉は、途中で途切れた。彼の体は、力を失い、その場に崩れ落ちた。
鷹山は、鯨井の亡骸を抱きしめ、静かに呟いた。
「鯨井…お前は、弱くなった。…だが、弱くなったからこそ、お前は…人間だった」
鷹山の言葉は、静かな研究室に、虚しく響き渡った。
鯨鯢の咆哮 鷹山トシキ @1982
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