(3)

「飲み会、何時まで?」


「9時半」


「おそ。待ってるから、一緒に帰ろ」


「待ってなくていいよ。私が世海ん行く」



 そう言って、世海から少し距離を取る。

 思い出したのだ。彼が大切な人間にはとことん甘いことを。それを心地よく思う反面、世海なしでは生きていけないような気がして、怖くて、そうして私は別れを切り出した。



「世海、私を甘やかさないで」


「甘やかしてない。碧が大事だから、大切にしたいだけ」


「…喜んじゃだめなのに、嬉しい…」



 内心に留めておくべき感情が口から出てしまった。そんな私の言葉を聞いた世海は、極上のお菓子を口にしたかのように微笑む。



「碧、可愛い」


「ッ、まけるな…まけるな…」


「何に?」


「世海に!いい?毎日のお迎えとか、記念日ごとの花束とか、要らないから!」



 借りてた上着を世海に押し付け、店内に戻る。待って、追いかけてくる声を無視し、上司に一声かけて店外に出た。



「碧、どこ行くの」


「帰るの」


「…どこに」


「世海ん!」



 彼の腕掴む。きっと彼は5年前と同じ場所に住んでいる。そう直感し、足を動かす。



「碧、寒いね」


「…ちょっとね」


「碧、だいすき」


「ッ、私も!」


 

 子どもみたいに手を繋ぎ、ゆらゆらと揺らす。

 2人の間を通り抜ける風が、互いの片耳にあるピアスを揺らした。

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風に揺れる 由羽 @kiho_02

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