(2)

 彼は煙草に火を点ける。その横顔をじっと見つめていると、紫煙を吐き出した彼が私を見下ろす。



「ムカつくくらい可愛い顔」


「え」


「なんでまだ、そのピアスしてんの?嫌いかなんて俺が聞きたいよ」



 風が吹く。彼のピアスがしゃらんと音を立てた。いや、ピアスが、音を立てた。

 私達の付き合いは長い。6年だ。青春といわれるその6年を恋人として過ごした。当たり前のように結婚する未来を描いていた。

 今振り返っても順風満帆な日々で、どこで歯車が狂ったのか分からない。けれども当時の私達は、たしかにお互いのすれ違いを感じていた。



「嫌いじゃないよ、なんて。今更なんじゃない?」


「…そうだな。そうだけど、俺一瞬でおまえだって分かったよ」



 おまえは違う?なんて聞く彼は、私の頬を優しく撫でる。あんまりに優しい仕草に、またも視界滲み出す。

 違うと言えばいい。そうすれば私達は元通り他人になる。5年前に私が望んだ未来になる。



「ちが、わない…」


「だよな。なんで俺ら別れたんだっけ?超無意味だったよ、おまえしか考えらんねえんだもん」


「ごめん、ごめん世海…ッ」


「いいよ。俺もう、みどりって呼んでいい?」



 5年前、私から別れを切り出した。その時に言ったのだ。『二度と私の名前を呼ばないで』と。



「呼んでほしい。傷つけてごめん、自分勝手でごめん。世海、だいすき」



 滲んだ視界は限界を迎え、頬に涙が伝うのが分かった。こぼれ落ちる涙を服の袖で拭っていたら、世海からハンカチが差し出される。



「…用意周到」


「涙もろい彼女と6年付き合ったら、勝手にハンカチ持つ癖がついたんだよ」


「そうだった、いつも私の涙は世海が拭いてくれたよね」


「うん。これからもその役目は俺のだよ」



 甲斐甲斐しく涙を拭く世海は、私の頬に唇を寄せた。

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