異世界ピアノ

藍無

第1話 音に始まり

 ここに在る『音』よ君に届け。

           *

「ふあ」

 わたしはあくびをする。

「ねむい」

 思わず、そう呟いた。

 そして、起き上がり、いつもの自分の部屋ではないことに気が付く。

「あれ?」

 ここどこだ?

 私はあたりを見回した。

 うーんと、たしか昨日もいつも通り学校に通おうと普通に道を歩いていて――そう だ、トラックにはねられたんだ。それで、気が付いたら変なよくわからない草原にいたんだっけ? それで、とりあえず歩いてみたら町が見えてきて、なぜか持っていた この世界のお金で宿に泊まったんだっけ?

 情報量多すぎない?

 たしか昨日はこの状況を夢だと思って、すぐに宿で眠った気がする。

「……すぅっ、はあぁぁ」

 私は深呼吸をした。

 そして、思いっきり自分の頬を叩いた。

「いだいっ!」

 どうやら、夢ではないらしい。普通に痛い。

「…異世界転移ってやつ?」

 わたしは、宿の鏡に映る自分の姿を見てそう言った。

「…あれ?」

 みると、私の姿はなぜか茶色の髪に茶色の瞳から、金髪に水色の瞳に代わっている。

「あれぇぇ?」

 おかしいな。なんでだろう?

 こっちの世界に来るときに誰かに髪の色とか変えられたのかな?

 それにしても、どうしよう。

 見た感じ、私は少し癖のある金髪を黒いリボンで一つに結んでいて、澄んだ水色の瞳の少女の見た目だった。まあ、それなりに可愛い。

 でも、どうしよう?

 この世界のお金、私たいして持ってないんだよね。

 異世界ってことは冒険者ギルドとかってあるのかな?

 きっとあるよね。行ってみようかな。

 そう思い、私は身支度をととのえて、冒険者ギルドへさっそく向かった。

 ギルドは、やっぱりあったようで、なぜかとまった宿の向かい側にあった。

 宿とギルドがすごく近くて、探すまでもなかった。

 ギルドに入ってみると、冒険者のような恰好をした人がたくさんいた。

 看板にチラシのようなものが貼ってあると思ったら、依頼についての紙だった。

 たぶん依頼を受けるのってカード的なやつを作ってからだよね?

 そう思い、私はとりあえず受付嬢のところへ行った。

「次の方どうぞ~」

「あの、カードを作りたいんですけど」

「あ、ギルドカードのことですね」

「はい」

「では、こちらに手をかざしてください」

 そう言って、水晶玉のような形の石を机の上に受付嬢が置いた。

 私は言われた通りに手をかざしてみる。すると、ステータスのような画面が出た。

「レベルは1。能力スキルは、ピアノですね」

「ピアノが、能力?」

「見たことがない能力スキルですね」

 受付嬢も驚いたようにそう言った。

「ギルドカードはこちらになります」

 そう言って、受付嬢はギルドカードをくれた。

「こちら、銅貨3枚です」

「はい」

 銅貨三枚は、前世でいうと30円ほどだ。安い。

 私はそう思い、払った。

 ギルドカードを受け取り、とりあえずギルドを後にした。

 ピアノがスキルってどういうことなんだろう?

 訳が分からない。

 確かに前世、ピアノを習ってはいたけど、それってスキルなのか?

 っていうか、どこかこの世界にピアノを弾ける場所ってあるのかな?

 そんなことを考えながら、取り合えず私は町を歩いてみた。

 すると、町のお店にカフェのようなところがあった。そこに、なぜかピアノが置いてある。自由に弾けるタイプかな?

 私はとりあえず、店内に入ってみた。店内は、少しおしゃれな落ち着いた雰囲気のお店だった。店内には一人、貴族のような見た目の長い紫色の髪に水色の瞳の若い男の人がいるのと、店員さんがいるくらいで、そんなにたくさんの人はいなかった。

「あの~、このピアノって自由にひいてもいいんですか?」

 お店の店員さんにそう聞いてみた。

「ええ、ご自由にどうぞ」

 良かった。私は、ピアノを弾こうと思い、座った。

 そして一音、ぽーん、と音をならす。

 すると、よくわからない画面が出てきて

『スキルを使用しますか?

        Yes or No  』

 という文字が表示された。

 どんなスキルを使うんだろうか?

 もしかして、さっきのピアノのスキルだろうか?

 自動使用になっていないらしい。

 私は試しに使ってみようと思い、Yesの方を押した。そして一音、ぽーん、とピアノをならした。すると、刃のような形をしたものがピアノの周囲にとんだ。

 そして、ピアノから半径一メートル以内くらいの距離にある店内の椅子のあしが切れた。

「え?」

 思わず私は固まった。

「どういうこと?」

 店員さんも驚いた様子でこちらを見ている。あきらかに、椅子が切れたのは偶然じゃないだろう。でも、どういうことだろうか?

「…? どういうことなんだろう?」

 もう一回、ぽーん、と音をならす。またもや、その椅子の足が切れる。

「…?」

 偶然だろうか? ううん、どうしよう。わたしが、椅子を壊したことになるのかな?

「お客さん、この椅子弁償してもらえますか?」

 店員さんにそう言われた。

「ごめんなさい。わざとじゃないです。いくらですか?」

 どうやら、私がピアノの音を鳴らしたことで椅子のあしは切れたらしい。スキルがピアノって、こういうことだったのか? ピアノの音で何か切ることができる的な?

「金貨三枚」

「……へ?」

 …待て待て待て!? 金貨三枚って、確か30万円くらいだよね? むり無理、そんな値段持ってないって。ど、どどうしよう?

「…支払うのを待ってもらっても?」

「無理です。あなたが逃げる可能性もあるので」

「…すぅっ、はぁぁあ」

 深呼吸をした。これはきっと悪い夢に違いない。

 私は思いっきり顔をたたいた。

「……いだい」

 痛い。夢じゃないのか。

 店員さんが変な人を見る目でこちらを見ている。

 ど、どうしよう…。

「私が払いましょう」

 背後を見ると、先ほどまで店内の席に座って少し怖い顔をしていた若い男の人がそう言ってくれた。やったぁ。これって、助かったんじゃない?

「…店側としては、しっかり代金を払っていただければ大丈夫です」

 店員さんはそう言った。

「じゃあ、私が払います」

 そう言って、その男の人が払ってくれた。ナイス!! ありがとう。感謝だあ。

「あなたに少し話があるのですが」

「なんですか?」

「王族魔法団に入りませんか?」

「……それってなんですか?」

 なんだそれは? 聞いたことのないごっつい名前だなあ。でもなんか少しかっこいい名前。

「王族をお守りする魔法団ですよ。誰もが入ることを夢見るほど有名ですよ?」

「へええ。お給料は?」

「一日金貨一枚」

「やります!!」

 私は即答した。

「…あれ? でも、仕事内容は?」

「普段は騎士団と一緒に町の警備、戦争時は騎士団とともに出兵します」

 それって結構危ないんじゃない?

 でも、結構給料高い。くうっ、迷うけど、なんかさっき使ってみた感じピアノのスキル強そうだから入ろうかな?

「やります」

 私はそう答えた。するとその男の人は、

「良かった。あ、そうだ。名前を名乗り忘れていましたね。私の名前は、ソラフィオス。王族魔法団副団長です。これからよろしくお願いしますね」

「えぇっ!?」

 なんかすごい偉そうな役職名! たぶん、これから上司的な存在になる人かな?

「えっと、ありすです。よろしくお願いします」

 私はそう言って、お辞儀した。

「それにしても、さっきのスキルすごいですね。どんなスキルなんですか?」

「…えっと、わからないです」

「ステータス、見れないんですか?」

「どうやってみるんですか?」

氷時計レティスを持っていれば見れるはずですが?」

 れてぃす? 何それ。

「たぶんそれ、持ってないです」

「そうなんですか!? じゃあ、買った方がいいですよ」

「どこに売ってるんですか?」

「時計屋で売ってますよ?」

「この町に時計屋ってありますか?」

「あ、ありますよ。ここについて詳しくないんですか?」

 怪しまれたか? まさか異世界の人だといっても信じられないだろうし…

「…旅人なんです。ここには来たばかりで」

「なるほど。そうでしたか。目的のものは見つかりましたか?」

「目的のもの?」

「ええ、何かを探して旅人になったのかなって思ったんですけど、違いますか?」

 なるほど、この世界の旅人ってそんな感じなんだ。

「…まあ」

 答えはにごしとこう。

「それよりも、時計屋ってどこにあるんですか?」

「ここの近くにありますよ。よければ案内しましょうか?」

「ありがとうございます」

 私は微笑んでそう言った。

 まだこの世界についてよくわからないし、この人に案内してもらおう。見た感じ、信用できそうな感じだ。

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