第4話 遺体安置所

人々はよく言う。病院で最も寒い場所は、救急室でも手術室でもなく、遺体安置所だと。そこには冷却された遺体が静かに横たわり、暗闇に包まれている。通り過ぎる者は皆、たとえ風が吹いていなくとも、背筋に冷たいものが走るのを感じる。


ハルトはエレベーターに乗り込み、オフィスの階を押した。しかし、扉が閉まると同時に、エレベーターは上昇するどころか、小さく震えた後、不意に停止した。


チン!


ゆっくりと扉が開く。冷たい空気が顔に吹きつけた。

目の前の表示には、はっきりとこう書かれている。


「地下 - 遺体安置所」


ハルトは眉をひそめた。

「何だこれ? どうしてここで止まったんだ?」


彼は再び上の階のボタンを押した。しかし、ライトは点灯せず、すべてのボタンが反応しない。扉は開いたまま、まるで彼が降りるのを待っているかのようだった。


静寂の中、不意に遠くから声が聞こえた。


誰かが——彼の名前を呼んでいる。


その声はかすかで、長く引き延ばされ、まるで遠い世界からの囁きのようだった。


ハルトの身体がこわばる。背筋に冷たい感覚が走る。彼は深く息を吸い込み、必死に落ち着こうとした。

——気のせいだ。


しかし、カツ…カツ…


軽い足音が響いた。誰かが、冷たいタイルの床の上を歩いている。


ハルトは喉を鳴らしながら、薄暗い遺体保管室へ続く廊下を見つめた。

この場所には、ホルマリンの匂いと、何か鉄錆びたような生臭い臭いが混じり合っていた。


彼が一歩踏み出すと、足音はぴたりと止まった。


心臓が激しく鼓動する。

——誰かが、闇の中から自分を見ている。


——ガタン!


突然、背後のエレベーターが勢いよく閉まった!


ハルトは驚いて振り返る。エレベーターの中の照明が点滅し始め、やがて赤黒い光へと変わる。

鉄の扉が小刻みに震え、まるで中から誰かが開けようとしているようだった。


その時、すぐ耳元で、しわがれた声が囁いた。


「…ハルト…」


全身が凍りつく。呼吸が荒くなる。

振り返ろうとするが、首筋を何かに掴まれたように動かせない。


冷たい手が、そっと肩に触れた。


背筋が、凍りつくような悪寒に襲われる。


ハルトは叫びながら、階段へと駆け出した。しかし、そこにあるはずの唯一の出口は、無情にも閉ざされていた。

重い鉄の扉はびくともしない。どれだけ力を込めても、開く気配すらない。


背後で、また足音が聞こえた。


ゆっくりと。

冷たく。

規則的に。


ハルトは振り返った。


薄暗い廊下の奥、ぼんやりとした光の中に、一つの人影が立っていた。


その影には——


顔がなかった。


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人影のない病院 @Oame

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