第3話 午前3時
午前3時、それは深夜と夜明けの狭間、幽世と現世の境界が最も曖昧になる瞬間。
この時間になると、彷徨う魂が現世へと戻ろうとする——そう囁かれている。
高橋陽翔 (たかはし はると) は当直室に座っていた。
パソコンの画面が青白い光を放ち、その光が彼の顔を照らしている。
机の上のデジタル時計が**「03:00 AM」**を示した瞬間、どこからともなく冷たい風が吹き込んできた。
紙が微かに揺れる。
彼は眉をひそめた。
この病院で働き始めて以来、毎晩3時になると、得体の知れない不安が胸に押し寄せるのだ。
カチ…カチ…カチ…
壁にかかる時計の音が突然大きくなる。
一定のリズムを刻むはずなのに、その音が脳に直接響くような感覚。
外の廊下では、蛍光灯が点滅し始め、白い壁に影が踊る。
ギィ…
当直室の扉がゆっくりと開いた。
誰もいないはずなのに。
喉が渇く。
彼は震える手でペンを握りしめ、「ただの風だ」と自分に言い聞かせた。
しかし、その瞬間——
「高橋先生… 宮本ユキという患者を覚えていますか?」
背後から、かすれた声が聞こえた。
心臓が跳ね上がる。
彼は反射的に振り向いたが、そこにあるのは暗い部屋と窓に映る自分の影だけだった。
宮本ユキ…?
その名前を耳にした瞬間、頭が真っ白になった。
彼女は2時間前、午前3時ちょうどに死亡した患者だ。
なぜ?
なぜこのタイミングで彼女の名前が…?
呼吸が荒くなる。
廊下を覗くと、奥の闇が異様に深く見えた。
「錯覚だ、ただの疲れだ」
自分にそう言い聞かせ、立ち上がる。
コーヒーを飲めば落ち着くだろう。
今夜は何杯飲んだだろうか?
もう思い出せない。
とにかく、朝になればこの悪夢から解放される。
ポケットの中のスマホが軽く震えた。
画面を確認すると、時刻は**「03:00 AM」**のままだった。
彼は息をのんだ。
どれくらい時間が経った?
1分? 5分? それとも1時間?
だが、スマホの時計は3時から動いていない。
「おかしい… どうして時間が止まったままなんだ?」
ふと気づく。
藤村朱里 (ふじむら あかり) の姿がない。
彼女はどこに行った?
コツ… コツ…
静寂を破る足音。
彼は振り返る。
エレベーターの扉が、ゆっくりと開く。
——その中に立っていたのは、血まみれの朱里だった。
首が不自然に傾き、顔が歪んでいる。
だが、口元には不気味な笑みを浮かべていた。
陽翔の心臓が凍りついた。
反射的に後ずさる。
朱里はゆっくりと顔を上げ、虚ろな目で彼を見つめた。
「高橋先生……」
彼女は微笑んだ。
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「葬儀 (そうぎ)」
心理ホラー × 百合要素を含む新作小説、近日公開予定!
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