第25話不思議な泉

「こんにちは」


カイト達が道に迷っているとふと、後ろから声をかけられた。


森にふさわしくない綺麗な服を着た20代くらいの女性だった。


どことなく、人間離れした雰囲気がする。


それに、そもそもがこの鬱蒼とした森でこんな身なりの女性が現れるだろうか。


「あなたたちはなぜこんな森に?冒険者だと思いますが・・・」


「なぜわかったんですか?」


「この森は素材を集めに来るのに効率的なのです、珍しくないのですよ」


警戒されないように柔らかい物腰でその女性は話している用だった。


「ところでこの森で迷っているようですが目的の場所までご案内いたしますか?この森は特殊なのです」


少し不安ではあったがカイトはこの女性に聞いてみることにした。


「この森の奥に精霊の住む泉があると聞いてきたんです。案内を頼んでいいですか?」


・・・。


一瞬、その女性の表情が変わった気がしたが、すぐに最初の表情に戻った。妙に警戒されているような気がする。


「わかりました。貴方たちはただの冒険者ではなさそうですね」


「こちらへどうぞ」とその女性は案内してくれるようだった。














その女性に続いて3人は道なき道を案内され進んでいく。


不思議なことにその間、魔物の襲撃などもなく順調だった。


もしかしたら罠かもしれない。


カイトは不安げに話しかける。


「あなたは何者ですか?」


「そうですね・・・この森の管理人、と言うところでしょうか」


嘘はついていないようだ。


しかし、こんな鬱蒼とした魔物の出る森の管理人。


怪しいと思うのは当然だった。


「泉に着けばわかりますよ。勇者さん」


微笑みながらこちらに答える。


「君はもしかして・・・」


チャモロさんが何かを言う前に泉に着いた。


「そうか」とチャモロさんが呟く。


合点がいった、という感じだ。


そして視界に広がったのは水のせせらぐ心地よい音と幻想的な景色。


神聖な雰囲気がする。


「君はウィンディーネ・・・水の精霊だね。初めて見たよ」


チャモロさんがそういうと、


「そうです。ある程度はわかります。契約をしたいのでしょう?」


ウィンディーネは正体を明かした。


一体分かっていたならなぜここまで案内してくれたのか。


「・・・なぜ案内してくれたのか、と思っていますね」


「はい」


「最近、魔素の量が増えているのを感じます。そして、この森の魔物にも魔素が増えたせいか狂暴化した個体が見受けられています。私たちも他人事ではないのですよ」


同じ魔物同士でも一枚岩でないことは経験上目撃している。


狂暴化した魔物は、見境なく魔物同士でも食い合うのかもしれない。


「さて」と彼女はふとこちらを見る。


「契約の前に試練を与えなければいけません。あなたの力を見せてください。戦うのはあなた一人です」














ウィンディーネに案内され、泉の上流に向かっていくと滝があった。


滝の裏側には洞窟があり、最奥には水のリングと言われる証があると彼女は言う。


ただここは魔物の住処。


「頑張って!カイト君!」


「精々生きて帰ってきなさい」


危険は重々承知だ。


でもあのオーガに比べれば大したことじゃない。


二人に「いってくる」といい、洞窟に足を踏み出した。












「はああっ!」


洞窟の内部には水の精霊が様々な形に姿を変え、襲ってきた。


幸い耐久力はそれほど高くはない。


属性魔法に対する耐性もなく、ある程度の数で襲ってきても対処は余裕だった。


(ここ洞窟なのに明るいな)


奥に向かって結構歩いているが、不思議な青い光のおかげで先が見やすい。


・・・どのくらい歩いているのだろうか。


「この様子なら余裕かな・・・多分」


ただ。


最奥には何がいるのか。


不安感はあまりないが大物であることは確かだと思う。


でもこちらにはフラガラッハがある。


この聖剣は風属性が最初からエンチャントされている状態の為、切れ味が並みの剣を凌駕している。


そのおかげで弱点に当たれば簡単に切断できる。


何しろ屈強な、あのオーガの腕を簡単に切断できたくらいだ。


「そろそろかな?」


長い階段を下って行くと前方に大扉が見えてきた。


・・・いよいよ最奥か。


冒険者グッズからポーションを取り出し、口に含む。


緊張で乾いたのどを潤すと少し重い扉を押した。


その扉の先には、祭壇のようなものがあり手の彫刻の指に青いリングがある。


「これで終わり・・・じゃないよね?」


呟いた瞬間だった。


周囲に溜まっている地底湖の中から地鳴りとともに青いうろことヒレを持つ巨大な水龍が姿を現した。


「グオオオオオ!」


咆哮を上げるとこちらを見据える。


100パーセント、こいつがここのボスだ。


「もう・・・やるしかない!」


フラガラッハを構え、カイトは自分にカツをいれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生勇者はサキュバスに強い どれいく @dorei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る