家政婦 No. META 無料キャンペーン

ロックホッパー

 

家政婦 No. META 無料キャンペーン

                          -修.


 我が家に家政婦が来てから1ヶ月ほどが経つ。家政婦と言っても人間ではなく、汎用人型サポートロボットNo. METAのことだ。身長は160cmくらい、2足歩行で、2本の腕のそれぞれに5本指の手がついており、人間の動作が再現できるようになっている。外観はどうみてもロボットで、頭の部分はディスプレイになっており、ヘノヘノモヘジのような線画で表情が示される。もともとは人手不足の工場やお店を救うために開発されたものだが、その汎用性と量産効果による価格低下で色々なバリエーションが出てくるようになった。我が家で導入した家庭用はもちろん、学校の先生、看護婦、観光ガイドのロボットまであるらしい。

 我が家は共働きの、俗にいうパワーカップルで年収はかなりの額となる反面、家事はおざなりにならざるを得ない。このため夫婦二人で話し合った結果、ロボットの家政婦を導入することにしたのだ。

 ロボット本体は購入したが、家事プランはいろいろあり、我が家では掃除、洗濯、温め直しなどの簡単な調理ができる基礎家事パックを月額料金で契約している。さらにお金を積めば、食材を発注、加工して食事を準備してくれるプランや、ペットの世話をしてくれるプランも用意されている。

 ロボットは自然言語で指示や会話ができるが、呼びかけの言葉が必要なので我が家では単純に「ミータ」と呼ぶことにした。まあ、家政婦のミータだ。


 「ミータ、コーヒーを入れてくれ。」

 妻が残業でまだ帰ってきていない夜、俺はミータが夕食の食器を洗い終わったタイミングを見計らってコーヒーを指示した。妻は週に1、2日遅くなる日がある。ミータは律儀にドリッパーでレギュラーコーヒーを入れて、俺のいるソファの前のテーブルに運んできてくれた。

 「ご主人様、コーヒーでございます。ところで、今から少しお時間を頂いて、営業を行ってもよろしいでしょうか。」

 珍しくミータが話題を切り出してきた。俺はどんな売り込みなのか少し興味もあり、話を聞いてみることにした。

 「いいよ。コーヒーを飲みながら聞く。」

 「ありがとうございます。私を導入いただきまして1ヶ月が経過いたしました。1ヶ月経過記念キャンペーンとして、オプションプランの1週間お試し導入のオファーがございます。」

 「ほう、珍しいね。どんなプラン?」

 俺はコーヒーの香りを楽しみながら聞き返した。

 「はい、こちらのご家庭は共働きでございます。ご主人様は奥様がちゃんとお仕事をされているのか気になりませんか。もしかすると奥様の会社の男性といい関係になっている、などとお考えになったことはございませんでしょうか。パワーカップルの場合、案外そのような状態になっている場合もございます。このため、ご主人様に提案するプランは「不倫ウォッチングプラン」という特別プランでございます。もちろん、今回は最低調査期間の1週間の無料プランです。その後も気になるところがあれば有料で継続いただけます。」

 「ふーん、すごいな。どんな仕組みかはわからないが、そんなプランもあるんだ。ただなら、やってもらおうかな。」

 俺は別に妻を疑っているわけではないが、何をどのように調査するのか興味があり、試しにやってみることにした。


 そして1週間が経過した。その夜も妻は残業で帰ってきていなかった。

 「ご主人様、特別プランの結果が出ましたのでご報告いたします。」

 また、食後のコーヒータイムにミータが口火を切った。

 「奥様の会社の勤怠記録、スマホの位置情報、奥様の会社の周辺のライブカメラなどから情報収集いたしました結果、奥様の帰りが遅い際はどこかに立ち寄られていることがわかりました。」

 「えっ、不倫しているっていうこと?」

 「いえ、今回の調査ではそこまでの確証は得られておりません。どこかに立ち寄っているという事実が分かったのみです。」

 俺は迷わずプランの有償継続を決めた。


 そして1週間後、再びミータから報告があった。

 「ご主人様、わかりました。大変申し上げにくいことですが、当社のデータベースの調査結果から奥様の動向がわかりました。奥様は女性向け性風俗に通っておられました。不倫というかどうか微妙なところです。」

 「俺というものがありながら、別の男とやっていたということか。」

 「いえ、何と言いますか・・・」

 珍しく、ミータが言いよどんだ。

 「金は払っているんだから、ちゃんと報告してくれ。」

 「は、はい。かしこまりました。先ほど当社のデータベースと申し上げましたが、相手は私と同様の当社のロボットでして、女性用ドールと言いますか、奥様の推しのアニメキャラを忠実に再現したシリコン製の外観をもったロボットでして、そこに奥様へのサービス履歴が残っておりまして・・・。」

 俺は、怒りとも、悲しみとも、呆れともつかない感情が同時に訪れ、絶句するしかなかった。


おしまい

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