第43話 12月10日・大雪

 今年も残り3週間ほどとなった。この時期、世間の皆様は忙しく過ごされているのだろうがニートには特に予定などない。強いていえばクリスマスにピザを焼いてと家族からリクエストされていることだろうか。

 俺が学生のころはバブルの余波で、身分部相応にカネのかかったクリスマスデートに浮かれるカップルで溢れていた。勿論そこに俺は含まれておらず毎年アルバイトをしているか、せいぜい恋人のいない男女で夕飯を食いにぐらいだった。

 当然カネがないので終電までマックで過ごすことはザラだったが、意外とパートナーがいない女子が店内を占めており少し安心した。野郎ばかりの現場で、薄暗い明かりの下作業しているのも嫌なもんだが、思いがけない撤収で外に放り出されたときは居場所が無くなった気分になったし…


 岸田政権の定額減税の恩恵を、不足額給付というカタチで9月末に受け取った。そして思いがけない臨時収入があったのでピザ用電気釜という小型家電を買った。キャンペーン期間で二割引というのも大きかったが、20年近く使っているトースターを買い替えたいというのもあった。

 ここ数年のインフレ物価高で現金給付というのは有り難いものだが、野暮なこといえば一時しのぎの政策だなとも思う。たしか石破政権は内外のバラマキ政策を批判されて選挙で負けたんだよな。なんで現政権では18兆円もの巨額補正予算を組んだのだろう?お米券や光熱費の補助金、ガソリン暫定税率の廃止など一見庶民に寄り添った政策で反対しづらいがインフレ物価高を止める政策ではないと思う。

 

 今年ニートの家計簿は、意外なことにわずかながら黒字だった。住民税非課税世帯となり国民健康保険料が大幅に減額となった。また昨年の失業保険給付で国民年金保険料を一括で支払った影響もある。インフレだというのに家計支出を大幅に引き絞った緊縮財政で乗り切った。

 年間収入は数万円の配当金と定期預金の利子ぐらいだったので、キャッシュフローという面では赤字なのだが、投資の含み益をいれるとわずかながら資産増となっていたのだ。

 俺はささやかながら投資をしており、もっぱら海外株インデックスファンドを購入している。トランプ関税により年初から5月ごろまで株価は右肩下がりで、この日記で散々愚痴を書き散らし憂さを晴らしていた。

 世界の株式市場で時価総額が高い企業は米国に集中している。巷ではS&P500もしくは全世界株のどちらが優れているか論争があるが、俺は米国により集中した方が合理的と考えていた。しかしトランプ大統領という不安要素が、思った以上に俺を揺さぶり全世界株を多く買うことになった。(構成銘柄の60%は米国企業だが)この時期買い増しした事が結果として含み益増につながった。

 

 投資手法にコア・サテライト戦略というものがある。リスクの小さいコア資産と、より大きなリスクをとる攻めの投資でリターンを得る方法だ。いっとき仮想通貨投資に興味を持った。

 友人はイーサリアムと草コインを買っており、どんなものか話を聞いたことがある。結論からいうと草コインはほぼ博打だった。初期段階で少額購入し、後発参加者が増えた段階で売り抜けして利益を確定する。ババ抜きみたいなもんだが、最後の一人が損失をかかえるのではなく、わずかな勝者が利益を持ち逃げし大多数の参加者で損失を分かち合うゼロサムゲームだ。

 これはハイリスクハイリターンとはいえない。投資の世界では一般的にリターンのブレ幅をリスクといい、一か八かの勝負をすることではない。

 

 仮想通貨といえばビットコインが有名である。コアサテライト戦略でサテライト資産として購入する人も多くいるだろう。ここでより大きなリターンを得るため博打に近い買い方がある。

 小さな力で大きなモノを動かす、てこの原理で例えられるレバレッジという方法を聞いた人も多くいると思う。

 例えばニートが100万円のコインを二口買いたいと思ったけど、10万円しか手持ち資金がなかったする。このとき10万円を保証金とし、レバレッジの20倍の取引をすれば購入可能となる。

 すると1ヶ月後5%値上がりして105万円x二口で210万円になった。このときに売ると、元本10万円+利益10万円で手元に20万円残る。なんとわずか1ヶ月で資産が倍になるのだ。

逆に5%値下がりした場合は、95万円x二口で190万円となるから損失10万円は保証金10万円で補填。追加で保証金を入れるカネがないと強制的に売り飛ばされ取引中止となる。たとえ一時的な値下りであろうと、この後回復しようとも1円ももらえないから元金10万円がゼロ円になる。これを自動ロスカットという。

 レバレッジ10倍なら10%の値下がりでアウトだ。先日ビットコイン最高値12万ドルから8万ドル代まで急落した。レバレッジ5倍でもレッドカードだ。その後9万ドル代に値を戻したらしいが、市場から追い出された投資家が多数いたと思う。


 先日、日銀の植田総裁が利上げを臭わせるとビットコインがまた値下がりした。国債が値下がりし長期金利が1.90%となると、いよいよ円キャリートレードの終焉かとネットがざわついた。

 アベノミクスの異次元金融緩和でゼロ金利政策がとられ市場に大量の円が出回ったが、それ以前から(1990年代半ば?)日本の政策金利は0.5%程度で諸外国との金利差が大きかった。

 ただ同然の低金利で調達した円を売り払ってドルに換金し、よりリターンが大きい投資をする。仮に100兆円だとしてもレバレッジ20倍で2000兆円の取引が出来る。その資金で株や債権、仮想通貨、金属やエネルギーに投資されたとするとどうなるだろう?

 当然だが借金は期限までに返済しなければならない。もし手持ちに現金が無ければせっかく買った資産を売るようだ。そして金利が上がれば返済額は大きくなる。より多くの資産を売るハメになる。

 ビットコインの急落は終わりの始まりじゃないだろうか?そう心配する声が大きい。実際どうなるのか俺には分からない。

 リーマンショックのときサブプライムローンは遠い世界の出来事だと思っていた。バブル崩壊後失われた30年が来るなんて誰も予想しなかった。


 俺は考えるのをやめた。自分でどうすることも出来ない。明日はスーパーでなに買おうかチラシを眺める方がよっぽどいい。


 

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新駄文日記 どうだっていいや @maestrogak

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