鳴動する泰山と真実に食い込んだ刃

以下ネタバレを含みますのでご留意ください。


ユヴァル・ノアは著書サピエンス全史の中で、『ホモ・サピエンスが噂を創造する能力を得た事は、生存戦略において大きな役割を果たした』旨、述べています。

本作ではそんな、みんな大好き憶測や噂を軸に事件が展開されます。

失われた家宝のペンダント。外部からの侵入は無く、飾っていたケースに不審な点も無い。

そうして失せもの探しに駆り出された主人公の探偵。
登場人物が各々広げた憶測交じりの風呂敷を、オッカムの剃刀で裁ち、推理の基本に立ち返って見事解決にこぎつけた主人公。――と、一見して読める本作。

だが筆者は、
『あるいは家具のきしむ音が重なっただけかもしれない』
『教えがあればこそかもしれない』
と、終わりに想像の余地を残すことで、繰り返される『憶測を剃れ』との対比的な結末に仕上げている。

ミステリーファンならずとも、お話好きはあーだこーだと腐心すことが大好き。

では、『かもしれない』の裏にどんなあーだこーだがあるのだろうか考えてみたい。

重要な事実は2点。
一つは『ガラスケースの下にひかれたカーペットがずれていた』こと。
これは、埃の付き方がやや不自然とあることから、比較的近い時期に、何者かによって動かされた事実を示している。

二つ目は、『ダンボールの隙間だけ埃が少なくなっていた』こと。

ペンダントが発見された『奥の物置部屋』についての記述は以下の通り。

『ガラスケースの後ろからペンダントが落下し、壁の隙間を転がって、隣の物置部屋の床で発見した。床には傾斜がみられ自然にその位置まで移動したものと推測できる』

だが自然に落ちたのであれば埃の中にペンダントがあってもいいのではないか。


そう、真相はこうだ。

犯人は、あえてカーペットをずらし、ダンボールの間の隙間の埃をぬぐう事で視線を集め、あえてペンダントを発見させることを意図していたのではないだろうか。

つまり、ペンダントが無くなることは犯人の意思に反する出来事だったわけだ。

それもただ発見させるのであれば、部屋の中心に出しておくなり、なにかもう少し目立つようなやり方はあったはずだ。

だがそれらは採用されなかった。

登場人物は、憶測を開陳することに終始し、ついに部外者の探偵までも登場してしまった。

これに苦しんだのは、犯人自身をおいてない。

それが証拠に、ペンダントのあたりでうめき声をあげ、足音まで立てて導いているではないか。

以上総合した結論、



犯人は、この屋敷に居候しているおせっかいな宇宙人のお化けだ!!!!!!


使い古したオッサンの剃刀に絡みつくムダ毛を眺めながらそんな事を考えてました。