第4話 脱出

どれくらい歩いただろうか、すでに来た道の三倍程度は歩いているように思う。闇塚は地図で見る限り直径が100メートルほどの円形の森だ。まっすぐ歩いていればすぐに外に出るはずだ。少なくとも竹林にはぶつかるはずだった。

森は深く、方向すら定かでは無い。出口に向かっているのか、それとも森の奥に向かっているのか。それでも歩くしか無い。まるで、見えない何かに追われてでもいるように。

3人の荒い息遣いと枝葉をかき分ける音以外何も聞こえない状態が続く。

「どうなってるのよ」

悲鳴にも似た声が漏れてしまう。

黙々と歩いていた望月君が顔を上げた。

「本当に警察はここを調べたのでしょうか?」

「どういうこと?」

「最初に思っていた以上に広いし、獣道すら無い。人が歩いた跡も見当たらない。警察が調べたと言う痕跡のかけらも見当たらないと思いませんか?」

「確かに、外から見た印象とは別世界のようだ」古谷先生も困惑しているみたいだ。

別世界? そうだ、ここは通常の世界とは異なる異世界に違いない。どこで迷い込んでしまったのだろう。

森に踏み込んだ時のことを思い出そうとした。古谷先生が竹林の中に隙間を見つけて、潜り込んだ。続けて私が入る。この時点では特に変わったことは無かった。最後に望月君が入った時に、空気が変わったように感じたのだ。

「脱出する方法がわかったわ」

自分の意識とは別に、声が漏れた。

「本当か?」

「望月君が鍵になってるのよ」

「僕が? いや、それほどでも」

照れるな。キモい。

「森に入った時のことを思い出して。望月君が入った瞬間、空気が変わらなかった?」

「確かに、そんなことがあったような」

「あそこで扉が開いたのよ。鍵は、何故だか、望月君」

「そう? 困るな」とドヤ顔を決める望月君。絶望的にキモい。

「だけど、あの場所をどうやって探す?」

古谷先生の一言で現実に戻る。

「なんか、罠がどうとか言ってなかったっけ?」

でかした望月!と心の中で叫ぶ。だが、それを察知したのか、さらにドヤ顔を決める望月恭平。

「闇が濃い場所を探してみるわ」

疲れるのでやりたくなかったが、視る能力を全開放して闇が濃い部分を探る。

「ここみたい」

古谷先生も望月君も怪訝な顔をしている。常人にはわかるまい。

「3人で同時に通り抜けるのよ」

気持ち悪かったが、望月君を真ん中に、右手を古谷先生、左手を私が繋ぎ、闇の濃い部分を通り抜ける。

一気にカエルの鳴き声が響き渡り、風で竹がカンカンとなる音が聞こえる。

「戻ってきたみたいだね」

スマホを確認すると何事も無かったようにアンテナが三本立っている。時間を確認すると闇塚に入ってから30分程度しか経っていない。

「腹減った」と望月君。

「謎は更に増えたね」と古谷先生。

「でも今日のところはこれくらいにしといたろ」と私。

振り返ると、何事もなかったかのように闇塚の森があった。




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闇塚 志賀恒星 @shigakosei

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