第15話 乱世とジャンヌの微妙な距離感
「騎士としての私が、いつからこんなに“子ども”を意識するようになったのか……。火刑のトラウマや転生の噂まで抱えているこの私に、誰かを想う余裕なんてあるのだろうか。」
ジャンヌ・ダルクが夜の自室でそう呟くとき、彼女の胸にはどうしようもない葛藤が渦を巻いていた。火刑への恐怖を引きずる自分と、異世界から現れた少年革命家・乱世(平旦 乱世、通称ヨーク)と接するうちに、薄らと芽生え始めた親愛の情らしきもの――どちらを優先すべきか分からず、どこか逃げ腰になっているのだ。
一方、乱世は乱世で、「自分はまだ子どもだし、リーダーとしてみんなを率いなきゃいけない立場なのに、ジャンヌのように凛として強い女性を意識していいのか?」と困惑していた。彼女は革命軍の大黒柱とも言えるほど頼もしく、また火刑のトラウマに苦しみながらも果敢に戦う姿が眩しい。けれど、そんな彼女に憧れる気持ちを抱いていいのかどうか、自分でも答えが出せない。
この第15話は、メインストーリーではあまり描かれない二人の“微妙な距離感”にスポットを当て、仄かな恋愛要素とともにギャグや仲間の茶化しを織り交ぜたプチ・ラブコメとして進行していく。そして、クライマックスでは乱世が夜の兵舎でジャンヌの悪夢を偶然目撃し、半泣きになりながらも彼女を癒そうとするが……。はっきりした恋愛描写までは踏み込まず、「今は革命が最優先」という形でささやかな決着を見る。ほろ苦い結末に、読者は二人の将来をどこか応援したくなるはずだ。
一、戦場では頼れる騎士と少年リーダー
1. 普段のジャンヌ:頼れる“女騎士”のイメージ
ジャンヌは革命軍の中心人物の一人として、火刑のトラウマを抱えつつも戦場では凛々しい姿を見せる。魔女裁判を生き延びた経験と騎士学校での訓練に裏打ちされた剣技は、仲間たちから高い評価を得ており、特に前線での指揮や人心掌握力には目を見張るものがある。彼女の存在感は独特で、男性騎士に引けを取らない威厳を漂わせるが、女性的な柔らかさや母性的な包容力も感じさせる、そんな魅力を持っている。
革命軍全体で作戦会議を行うときも、ジャンヌがいるだけで空気が引き締まると評判だ。彼女の声には落ち着きと説得力があり、乱世がリーダーとして前に立つ場合でも、ジャンヌが隣に立つだけで場が安定する――そんな印象があるのだ。もっとも、本人はいつも深い苦悩を抱え、炎のイメージに怯えていることを周囲に悟られまいと必死に振る舞っているに過ぎない。
2. 普段の乱世:少年リーダーの威厳(?)
一方、乱世は“ランドセルを背負った少年革命家”として広く知られつつある。異世界から来たと噂されるタブレット型デバイスChatOPTを使い、政治的な戦略や技術的なアイデアを次々に提示し、仲間を驚かせる。彼が持ち込む近代知識は革命軍にとって大きな武器だが、同時に子どもらしい感情の起伏も隠せない。
ドゥッガーニら武闘派からは「体は小さいのに意外とやる奴だな」と認められつつも、「ガキが何をリーダー面してんだ」という視線も少なくない。そんな逆風にめげず、乱世は自分が“この世界を変える”という意志を抱えて突き進むが、その道中でジャンヌの存在が心の支えになっているのは否定できない。彼女の騎士道精神と火刑をも恐れぬ勇気には、少年ながらに深い敬意を抱いているのだ。
二、二人の微妙な距離:周囲のからかいとすれ違い
1. ドゥッガーニやアルティの茶化し
二人の間のほのかに漂う緊張感や親愛の気配に最初に気づいたのは、やはり仲間たちだった。豪快なドゥッガーニは、乱世がジャンヌをちらちら見る様子を見て「へっ、色気づきやがってガキのくせに」とからかい半分に突っかかる。そのたびに乱世は真っ赤になって「ち、違うよ! 僕はただ、ジャンヌさんの力を尊敬してるだけで……!」と否定するが、逆に赤面が怪しさを際立たせる。
アルティもアルティで「姉さん、最近乱世くんと一緒に作戦会議多くない?」などとニヤニヤ突っ込むが、ジャンヌは「余計なことを言うな」とピシャリ。内心ではドキッとしつつも、「私は火刑の恐怖すら克服できていない身。誰かを恋愛対象として見るなんてあり得ない」と自分に言い聞かせる。もっとも、アルティからすれば「姉さんったら、あんな可愛い少年に頑張って慕われてるんだから、ちょっとくらい素直になればいいのに」と歯がゆく思っている。
2. すれ違いの日常
そんな状況が続く中、ちょっとした日常のすれ違いが積み重なる。
• 乱世がジャンヌに話しかけようとすると、ジャンヌは火刑の悪夢を引きずっていて機嫌が悪く、つい冷たくあしらってしまう。
• 逆にジャンヌが「あの……ちょっと相談があるのだけど」と声をかけたら、乱世はドゥッガーニの付き添いで別の任務に出ていて不在だった。
お互いにタイミングが合わないまま、すれ違いだけが増え、一向に素直にコミュニケーションできない。周囲から「あいつら、なんで妙にぎこちないんだ?」と不思議がられるが、当人同士は「仕方ないじゃない、私は(俺は)忙しいんだ……」とそれぞれ理由をつけて向き合おうとしない。
三、ある夜のクライマックス:ジャンヌの悪夢と乱世の提案
1. ジャンヌが悪夢に魘される場面
クライマックスはある夜の兵舎――ジャンヌは酷い火刑の悪夢を見てうなされていた。炎が全身を舐め、魔女裁判のときに聞こえた嘲笑や、自分が前世で焼かれたかもしれない記憶が混然一体となり、汗だくで布団を蹴飛ばしてしまう。そんなタイミングで、夜更けに偶然通りかかったのが乱世だった。
乱世は資料整理のために夜遅くまでChatOPTをチェックしていた帰り道、ジャンヌの部屋から洩れる苦しげなうめき声を聞いて立ち止まる。彼女が安らかに休めないほど深刻な悪夢なら放っておけないという思いで、乱世はドアを軽くノックし、「ジャンヌさん? 大丈夫ですか?」と声をかける。反応がないので、意を決して扉を開けると、姉妹と同じ部屋でもなければ宿直の兵士がいるわけでもないことを確認し、部屋に足を踏み入れた。
2. 慌てる乱世、恐怖で震えるジャンヌ
部屋の中では、ジャンヌが布団の上で息を荒らげ、顔を歪ませている。まるで焦げつく匂いまで感じそうなほど、彼女の表情は苦痛に満ちていた。
「ジャンヌさん、しっかり……目を覚まして!」
乱世は急いで彼女の肩を揺さぶり、冷えた水を用意する。彼女がはっと目を開け、涙を溜めながら乱世を見つめると、数秒間の沈黙の後にかすれ声で「ここは……兵舎……?」と呟く。乱世はほっと胸を撫で下ろし、「火刑の夢……ですよね。大丈夫、もう大丈夫ですよ」と声を掛ける。
いつも凛とした姿しか見せないジャンヌが、こんなにも脆く、恐怖に打ち震えている姿は乱世にとって新鮮な衝撃だった。彼女が自分の腕に掴まり、まるで溺れる者が浮き輪を求めるように震えているのを見て、乱世は子どもながらに「ああ、この人も弱い部分があるんだ」と切なくなる。そんな姿を意識していいのか分からないが、少年の胸は妙な高まりを覚えた。
四、乱世がChatOPTから学んだリラクゼーション法
1. 子どもなりの精一杯のサポート
乱世はジャンヌを落ち着かせるため、ChatOPTから学んだ“リラクゼーション法”を思い出す。具体的には現代心理学の応急対処をベースにした呼吸法や、音楽によるヒーリングなどだ。この世界では魔術ヒーリングが中心なので、そうした手法に馴染みが薄い。
「ええと、深呼吸をするとき、息を四つ数えながら吸って、四つ数えながら吐くんです……やり方がうまく言えないけど……」
ジャンヌは「そ、そんな……」と戸惑いながらも、乱世の手を借りてゆっくり呼吸を整えていく。ギコチないが、とりあえず体の震えが少し治まると、乱世は安堵の笑みを浮かべる。さらに「静かな音楽があればいいんですけど……この世界に音楽プレイヤーはないし、僕が適当に鼻歌でも歌いましょうか?」などと本気か冗談か分からない提案をして、ジャンヌを困惑させる。
「そ、そこまでしなくていいわ……鼻歌は……」
ジャンヌは半笑いになりながらも、「でも、ありがとう。さっきまで本当に苦しくて……火の中に閉じ込められてたみたいに動けなかった」と正直に漏らす。少年の気遣いが、わずかながら彼女を救っているのは間違いない。
2. 余計なお世話? 魔力アラームの試み
さらに乱世はChatOPTを操作しつつ、「もしジャンヌさんがまた悪夢にうなされたとき、自動的に仲間に知らせる“非常用アラーム”を作れないかな」と考える。魔力を応用した簡易センサーを寝床に仕込んで、異常な動きがあればランプを点灯させる仕組みなど、彼の得意分野だ。
しかし、これに対してジャンヌは「そこまでするのは……なんだか恥ずかしいし、迷惑をかけるわ」と遠慮がちに拒否。実際、姉アルティが同じ提案を受けたなら「余計なお世話」と言いそうだ。ジャンヌもまた、自分の弱さを人前に晒すのを嫌う性分なので、あまり干渉してほしくないのだ。
乱世は「す、すみません。余計なお世話でしたね……僕はただ、ジャンヌさんがまた火刑の夢で苦しむのを放っておけないというか、なんとか助けたいと思って……」と素直に打ち明け、ジャンヌは顔を伏せながら「ありがとう、その気持ちは嬉しいわ。……でも私は、自分の力で克服したいの」と応じる。二人の間に、ほのかな気まずさと温かさが混じった空気が流れるシーンは、見ている仲間がいたらドキドキしてしまいそうだ。
五、恋愛未満の“ほろ苦い”決着
1. 「今はまだ革命が最優先」
乱世としては、まだ少年である自分がジャンヌを異性として意識するのはどうなんだろう、と戸惑う。一方ジャンヌは火刑のトラウマや転生問題などに苛まれ、とても恋愛どころではないと感じている。しかも、革命軍としてリシュリューの洗脳と戦わねばならない緊急の局面が続く以上、私的な感情に浸れる余裕などない。
ゆえに、二人が急接近するような展開は起こらず、あくまで「何となく互いを大事に思っている」程度で止まる。それは相手へのリスペクトでもあり、「あなたを好きかもしれない」というもどかしさでもある。どちらもそれをはっきり表に出さず、“革命が終わったら考える”と暗黙のうちに保留しているのだ。
2. ほろ苦さが残る翌朝
夜が明け、ジャンヌは少しだけ顔色が良くなって起床した。外で乱世が仲間と軽く訓練しているのを見かけると、一瞬声をかけようか迷うが、結局自分から挨拶に行くのはやめる。乱世もちらっとジャンヌの姿に気づくが、照れたようにそっぽを向いてしまい、二人は言葉を交わさずに通り過ぎる。
しかし、互いに昨夜の出来事を思い出しては、胸に甘酸っぱい感情を抱えている。ドゥッガーニやアルティが「どうしたんだよ、あいつら」と不思議に思っても、当人同士に気恥ずかしさがあり、言葉にできないまま日常が進む。
読者視点では、「もう少し素直になれば良いのに」と思いつつも、二人が実戦で連携するときの息の合った動きに、その微妙な好意が透けて見えるのが切ない魅力だ。子どもリーダーと女騎士の淡い感情は、いずれどこかで大きく揺れ動くのかもしれないが、今はまだ革命が最優先。そうして、物語は小さな余韻を残して幕を下ろす。
六、ギャグと周囲のリアクション例
1. ドゥッガーニの無神経なからかい
• 「おいガキ、あの騎士女が何だって? おまえまさか好きとか言うんじゃねえだろうな?」
• 乱世「そ、そんなこと言ってないです!」 → 赤面
• 周囲「子ども扱いが過ぎるぞドゥッガーニ」 → 大爆笑
2. アルティのニヤニヤ
• アルティ「姉さん、最近乱世くんと一緒に訓練すること多いね? もしかして……」
• ジャンヌ「違うわ! あくまで訓練、ただの訓練にすぎない!」 → 顔が赤い
• アルティ「ふーん、でも姉さん、いつもよりよく笑ってるような……?」 → ジャンヌ、沈黙
3. 二人だけの夜の会話が噂になる
• 兵士A「あれ? 昨晩、ジャンヌ様の部屋から乱世が出てくるの見たぞ?」
• 兵士B「えええ!? なんだそれ、やっぱりできてんのか?」
• 兵士A「しっ、うかつに言うな! ジャンヌ様に斬られるかもしれんぞ!」 → 小声で盛り上がる兵士たち
七、ChatOPT的な技術: リラクゼーションと非常用アラーム
1. 心理療法や音楽療法をかみ砕いて説明
乱世がChatOPTから学んだ手法は、主に現代的なメンタルケアに近いもの。深呼吸法や筋弛緩法、ヒーリングミュージックの概念など、この世界の人々には奇妙に映るものばかりだ。
ジャンヌは最初「妙な呪文みたいね……」と懐疑的だったが、実際にやってみると身体がややリラックスする感じがあり、乱世の言うことが間違いではないと気づく。もっとも、心理的な根本治療には至らないので、単なる応急手当として認識しているが、それでも「子どもに教えられて助かるなんて、私も情けないわ」と、ほろ苦い感想を漏らす。
2. “魔力アラーム”の賛否
乱世が提案した“悪夢検知アラーム”は、魔力に微細な反応を示すルーン文字とChatOPTの暗号技術を掛け合わせた半実験的な装置。具体的には、ベッドの下にセンサーを埋め込み、身体の体温変化や呼吸乱れを感知すると、隣室のランプが点灯する仕組みを作りたかったのだ。
しかし、ジャンヌやアルティは「さすがにプライバシーがなさすぎる」「夜中にあちこちのランプが光るなんて恥ずかしい」と強く拒否。乱世は「そ、そこまで酷い拒否じゃなくても……」としょんぼりするが、周囲は「あんたの気持ちは分かるけど、さすがに姉妹の立場を考えろ」と仲裁に入る。この一件はギャグとして消化されつつも、彼らの友情(?)を深めるちょっとしたエピソードになった。
八、エンディング:未熟な好意、先延ばしの余韻
最後に、朝焼けの中、乱世が荷物を抱えて部隊を移動する場面。ジャンヌも別任務に出るらしく、二人は挨拶程度の言葉を交わしてすれ違う。ドゥッガーニやアルティらは遠巻きに「何だよ、二人とも一言くらい優しく声を掛ければいいのに」と歯がゆい顔をしている。
しかし、当人たちは胸にぐっと秘めた思いがあるからこそ、軽々しく声をかけられないのだ。ジャンヌが少しだけ振り返り、乱世の背中を見つめる。その視線に気づいた乱世が振り向くと、ジャンヌは慌ててそっぽを向き、やや頬を染めたまま早足で立ち去る。少年は「あ……」と口を開きかけるが、結局何も言えずに自分の隊へ戻る。
そんな二人の姿を見て、オーギャストが苦笑しながら「なんとも不器用な……。でもまあ、今は戦いが最優先だから仕方ないのかもしれませんね」と呟く。こうして、物語は淡い憧れとせつないすれ違いを残しつつ幕を引く。**“いずれ大きな戦いが終わったら、彼らの距離はもう少し縮まるのだろうか?”**という余韻を含む、ほろ苦い外伝だ。
まとめと見どころ
• ジャンヌと乱世のほろ苦い“プチ・ラブコメ”: 戦いの最中に生まれる微妙な感情を描きつつ、はっきり恋愛に発展するわけではない。
• 火刑トラウマと転生問題: ジャンヌが自分の悩みを整理しきれず、誰かを想う余裕などないと感じるも、乱世の優しさには戸惑う。
• 少年リーダーの葛藤: 自分がまだ子どもであり、しかもリーダーとしての責任を背負っているという立場で、ジャンヌのようなしっかりした女性への憧れをどう扱えばいいか迷う。
• 仲間たちのからかいとギャグ要素: ドゥッガーニやアルティがニヤニヤしながら茶々を入れたり、ChatOPT由来の心理療法や魔力アラーム計画が空回りしたりと、コミカルなシーンが散りばめられる。
• ラストは中途半端な決着: あえて恋愛描写には踏み込まず、「今は革命が最優先」として互いに想いを伏せる形で終わる。読者には「この二人、うまくいくのかな……?」というほろ苦い余韻が残る。
本編に比べて恋愛要素の少ない「ランドセル革命」世界において、ジャンヌと乱世の関係はほのかなロマンスを醸す一条の光となるが、当人同士は大真面目ゆえに進展する暇もない。だからこそ、この外伝では笑いと切なさが入り混じる“微妙な距離感”を描くことが大きな魅力となっている。
(第15話・了)
ChatOPTで起こす 開拓革命 ~革命軍を背負うChatOPT~ まとめなな @Matomenana
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