Ⅴ.密になるクラスメイト<後編>
「最後言う必要あったかな!? でも、ありがとう。せっかく誘ってくれたのにごめん。明日は一緒に帰ろうね!」
「おー。楽しんでこいよー」
逸見くんと別れたあと、その足で所属しているバスケ部にも顔を出して今日は休ませてほしいと伝えましたが、特に追及を受けることもなく送り出されました。毎日の自主練だってボールに触り足りなくてしているだけなので、本当言うと部活にだけは出席したかったんですけど、バスケはいつでも出来ますからね。たまには他の予定を優先させる日があっても良いと思うことにします。
「…………お……またせ…………!」
小走りで教室に戻り、ガラガラ音を立てながらドアを開けましたが、諏訪さん以外の生徒は残っていませんでした。彼女は私が教室を出たときと全く同じポーズで頷きました。優雅で重力を感じさせない所作は、羽を動かし鱗粉を振り撒いて舞う蝶々さながらです。
「ついてきて」
彼女は鞄をふたつ持ち、膝に手を置いてぜえはあと喘ぐ私のところまで来てくれました。急いでいる風でもなかったのに、視界に彼女の細長い脚がひゅっとフェードインしてきたので心臓が止まるかと思いました。
言われるがままに駅まで歩き、いつもとは反対方向の電車に乗り込んで、ふたつ先の大きな駅で乗り換えてからは初めて使う路線に乗りました。乗車率は時間帯の割にとても低くて、諏訪さんに促されるままボックス席に並んで掛けました。向かいのシートも空いているのに、なぜか進行方向に背を向けて。
数駅ほどだったと思います。電車に揺られて降り立ったのは、秘境とも呼べそうな――悪く言えば、明らかに過疎化した地域とひと目見てわかるような――小さな小さな駅でした。車内で言葉を交わすことはありませんでしたが、到着する直前に『つぎ』と耳打ちされ、不覚にもときめいてしまいました。そんなわけで駅名は覚えていません。振り返って確かめることもしませんでした。トータルで見ても乗車時間は長くなかったですし、そこまで気にしていなかったというのもあります。
「すごく自然豊かなところだね!」
「ふふ。……家、こっち」
客観的に見れば成立しているか疑わしい会話かもしれませんけど、彼女は元々言葉少ななほうなので、それについても私は気にも留めませんでしたが――。
「かなり奥のほうにあるんだね。駅からも距離あるし、通学大変じゃない?」
「そうでもないよ?
駅舎を出てから、彼女は舗装されていない道をずんずん進んでいくのです。彼女の足取りにはそぐわない擬音を使ってしまいましたけど、そのくらい迷いがなくて。聞いたことのない野生動物の鳴き声がしたり蛇の脱け殻に躓いたりしていよいよ恐ろしくなってきたあたりで、突然足を止めた彼女にぶつかってしまいました。そうなんです。私は彼女の後ろをぴったりくっついて歩いてきました。図体ばかり大きくて情けない限りです。
「わっ、ごめんね諏訪さん!」
「ここ」
彼女は小洒落た扉を開け、私を中に入れてくれました。外観は確認出来ませんでしたけど、扉も内装もお洒落ですから御伽噺の妖精が住んでいるような素敵なお家に違いありません。
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