Ⅱ.絵になるクラスメイト


 その日も私は逸見くんと取り留めのない話をしていました。昨晩放送していたドラマの感想を言い合ったり、前の授業が終わる直前に聞こえたお腹の音は誰のものだったのかについて話したりしていたんですけど、話題がぷっつり途切れたんです。

 

「諏訪さん、綺麗…………。今日は――蝶々たちは一緒じゃないみたいだけど」


 逸見くんと話しているときは無言もへっちゃらだけど、少しでも多くお喋りしたくて、私は目に留まった諏訪さんについてぽつりと呟きました。今日の彼女は何か違うと思っていたんですけど、具体的にどのあたりが違うのかというところまではわかっていなくて、そのときピンと閃いたんですよね。


「蝶々? 諏訪、蝶のデザインの物なんて持ってたか?」


 でも、逸見くんは窓際の一番後ろに座っている諏訪さんを見て首を傾げていました。


「小物とかじゃなくて、ほら。いつも諏訪さんの周りに飛んでる――。ペットかな。可愛いよね。今日は珍しくいないんだ〜と思って」


「はぁぁ? いるわけねーじゃん、そんなもん。いたらハタメーワクだし、教師に没収されて終わり――。てか、諏訪って虫嫌いで有名じゃね?」


「そうなの?」


「おー。特にクモとかカマキリとかが苦手なんだと。まー、この年齢にもなってくると虫好きな奴なんて男でも滅多にいねーとは思うけど」


 逸見くんは微動だにしない諏訪さんを観察することに飽きたようで、ペンケースに仕舞い損ねた私のお気に入りのシャーペンを回しています。手持ちで一番書きやすくて高級感溢れるシルバーのそれは、受験勉強を共に乗り越えた戦友でもありました。器用な彼に限ってないとは思うけど、落として壊すことがあれば絶対に弁償してもらおうなんて考えつつ、私の関心は別のところにありました。

  

 逸見くんは私の知らない彼女のことを知っているようでした。私が諏訪さんに対してあれこれ話すのをぼーっと聞いているだけの彼は、てっきり彼女に興味がないものと思っていたのに。


「そ…………っか。じゃあ、私の見間違い?」


 胸に広がるもやもやが諏訪さんに対する嫉妬心に端を発するものなのか逸見くんに対する対抗心に由来するものなのか不明瞭なまま絞り出した声はなんとも頼りなく、降っているときは辛うじて視認出来るのに地面に着いた途端溶け消えてしまう霙を彷彿とさせました。

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