今から聞いてもらうのは、私が高校二年に上がって少しした頃の話です。

　クラス替えをしてからこっち、私には気になるクラスメイトがいて――。あ、違うんです。男子じゃなくて。ひと言で表すなら、深層の令嬢という感じの人でした。お嬢様とか、そうじゃなければお姫様みたいな感じ。

　所謂姫カットをしてたし。それがまた不思議なことにずっと同じ長さなんですよね。こまめにお手入れしているだけなんだろうけど、金銭的にも時間的にも余裕があるんだなあと思って。やっぱり住む世界が違っていたんでしょうね。私たち庶民とは元々。生まれながらのプリンセス。

　姫カットって人を選ぶけど、目力はあるけど主張の強すぎない切れ長の瞳や鼻筋の通った高い鼻から尖った小さい顎にかけてのEラインが映えるから、彼女にはこれ以上ないってくらいぴったりなヘアスタイルだったと思います。

　身長は平均くらいだったんじゃないかと思うけど、細身で背筋がピッと伸びているし頭も小さくて脚が長いから、立っているところを見ると意外と小さくて和むんです。私、ガタイが良いから。ないものねだりってやつですかね。

　制服の着こなしは確か、ボタンは一番上まできちっと留めて、スカートは膝上5cmくらいってところでしょうか。他の女子に比べたら相当長かったと思いますよ。だけど、野暮ったい印象はなくて、誰より垢抜けてさえいたかもしれません。

　私服を着ているところは見たことがないけど、十二単も似合いそうだし、ゴスロリファッションなんかも着こなせそう。ゴスロリはともかく、十二単はなかなか気軽には着れませんよね。

　名は体を表すって言うけど、ミステリアスで凛とした雰囲気のその人は諏訪香蓮さんって言って、下の名前が特に可憐で静謐な彼女のイメージにぴったりだったの。

　そういうマドンナ的なひとはどの学校にも一人はいるんじゃないかと思うんですけど、彼女の特異点は別のところにあって、それというのが周りに蝶々が舞っていることでした。蝶々を引き連れてる――って言ったほうがイメージが伝わりやすい気もします。

　――――でも、彼女の周りに飛んでいる蝶々たちは私以外には見えていないみたいで、話すと決まって頭の心配をされました。失礼しちゃいますよね。日常的に話す相手なんて、同じクラスの逸見くんくらいしかいませんけど。