第5話 大師駅前2丁目 金山神社 その2

 川崎市川崎区。人口約23万人で政令指定都市の中心部。異界と現世が入り交じる奇妙な街。祭りの喧騒が静まり返り、夜空に浮かぶ月が街全体を静かに照らしていた。男根神輿は無事に金山神社へ戻され、金魔羅の秘宝もその場で厳重に封印された。異界の魔族たちは、地域住民の祈りと信仰、そして俺たちのなんとも頼りない戦いと、最後はかまなら様の活躍によって退けられた。


 境内には宮司と関係者たちが集まり、祭りの成功を祝福していた。俺とレイは神輿のそばで肩を並べて立ち、達成感とともに、疲労が押し寄せてくるのを感じていた。


「佐藤さん、本当にありがとうございました。」


 宮司が深々と頭を下げる。その目には感謝の色が滲んでいたが、俺は心の中で、「またこのパターンか……」とちょっと冷や汗。


「俺一人じゃ無理だったさ。レイがいてくれたおかげだ。」


 俺はそう言いながらレイの方をチラッと見る。レイは微かに笑いながら、肩をすくめた。


「まぁ、あんたが危なっかしくて放っておけなかっただけよ。」


 宮司は二人を交互に見て、改めて感謝の言葉を述べる。


「お二人のおかげで、この地の守りが再び強まったように思います。本当に感謝しています。」


 レイはその言葉をさらっと流すように笑いながら言った。


「私たちがやったのはほんの少しだけよ。祭りを守ったのは、この地域の人々の祈りと信仰。それに、この秘宝の力があったからこそ。」


 俺はその言葉に同意しつつも、ちょっとだけレイの本心を感じ取った気がした。彼女は魔族としての力を使いながらも、最後まで人間たちのために戦ったんだろうな。なんだか、ちょっと切ない気分になった。


 少しの間、静寂が訪れた。やがてレイがぽつりと呟いた。


「そろそろ行くわ。私にも守るべき場所があるから。」


 彼女はそう言って歩き出した。振り返ることなく、境内から出て行くその背中はどこか寂しげでありながら、でも何か妙に『カッコイイ』感じがした。なんか、強い女性ってこういう背中してるんだよな。


「……『メロメロ』になるとこだった。」


 思わず声が漏れた。けど、レイはそのまま振り返ることなく、歩き続けた。その姿を見ながら、なんだか胸が締め付けられるような気がした。


 遠くでまだ続いている祭りの余韻が微かに耳に届く。その音色は、まるで日常を守るために戦った俺たちの努力を讃えているように聞こえた。


 明日もまた、俺にはやるべきことが待っている。まあ、そんな日々の繰り返しなんだろうけど、少なくとも今日はちょっとだけ、胸を張って歩けそうだ。

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川崎が異界と繋がってしまったので探偵として街の平和を護ります4 @CircleKSK

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