第4話 大師駅前2丁目 金山神社 その1

 川崎の夜空を色とりどりの提灯が照らし、太鼓や笛の音が境内に響き渡り、屋台からは煙の香りが漂ってくる中、かなまら祭は最高潮を迎えていた。笑い声や歓声が飛び交い、色とりどりの光が揺れる中、巨大な男根神輿が誇らしげに輝いている。

 

「おいおい、こんな派手な祭り会場で戦闘なんてやるのかよ……」


 俺が冷や汗をかきながらつぶやくと、隣でレイが鋭い目を光らせる。


「神輿を守らなきゃ、この街ごと終わりよ。気合入れなさい。」


 そのとき、獣のような唸り声が響き渡り、人々が一斉に声を飲んだ。漆黒の影が境内に現れると、紫色の不気味な霧が足元に漂い始める。その漆黒の体からは不気味な紫色の霧が漂っていた。牙をむき出しにしたその姿は、人々を恐怖で固まらせるのに十分だった。

 俺は異界の魔物たちを睨みながらモデルガンを構え、隣で炎を放つレイに声をかけた。人間たちを守ろうと必死の抵抗を見せるが、魔物たちの数は増える一方だ。祭りの目玉である巨大な男根神輿を狙い、彼らは次々と押し寄せる。


「これ、どうにかならないのか……!」


 そのとき、突然境内の中央に陣取っていた神主が、神輿の前で神妙な顔つきになった。


「みなさま!かまなら祭はここからがクライマックスでございます!」


 神主は手に持った大太鼓を叩き始めた。ドンドコ、ドンドコ、ドンドコ!


「なんだなんだ、神主までお祭り気分かよ!」


 俺が叫ぶと、レイが神主を睨みつける。


「違う、あれは儀式の太鼓だわ!」


 神主が大太鼓を叩き始めると、その音は境内全体に重厚なリズムとなって響き渡った。その瞬間、空気が変わり、境内の温度が一気に上がったように感じられた。上空の雲が渦を巻き、金色の光が地上へと降り注ぐ。その中から現れたのは、全身が金色に輝く男根の神――『かまなら様』だった。

 

「なんだあれ……!」


 俺は呆然と見上げながらつぶやいた。周囲の人々も、魔物たちも、その神々しさ(というか圧倒的インパクト)に一瞬凍りついた。


「我が名はかまなら……この地を汚す者どもを許しはせぬ!」

 

 その声はまるで雷鳴のように響き渡り、魔物たちはその圧倒的な威厳に震え上がり、俺たちも思わず後ずさりする。


「……ねぇ、レイ、これって助けてくれるやつだよな?」

「さあ……。すごく……大きいですけど……なんだか、怖いくらいに大きいわね……。」


 かまなら様は大太鼓を叩き続ける神主に一礼すると、その手に巨大な木槌を持ち上げた。


「神輿を汚す者、即刻滅びるがよい!」


 そう言いながら木槌を一振り。どこか滑稽な動きに見えるが、その威力は本物だった。木槌が振り下ろされるたびに、魔物たちは金粉を撒き散らしながら消えていく。


「いや、なんだそのギミック!」

「祭りだから派手なのがいいのよ!」


 レイが呆れたように言う中、かまなら様は次々と魔物を木槌で粉砕していく。その動きにはどこかリズムがあり、周囲の観客たちからも自然と手拍子と掛け声が起こり始めた。


「おいおい、まさかこれ、観客が盛り上がるタイプの戦闘か……?」


「あそーれ!」


 最後に残った巨大な魔物のリーダーは、かまなら様の前で震えながら叫んだ。


「ちくしょ……こんな神がいるとは聞いていないぞ!」

「滅びるがよい!」


 かまなら様は木槌を高く掲げ、ドン!と一撃を繰り出す。その衝撃で魔物のリーダーは消え去り、空は元の静けさを取り戻した。


「ふぅ、これで一件落着だな。」


 俺が安堵の息をつくと、かまなら様が俺たちを見下ろし、にこやかに微笑む。


「人間たちよ、祭りを楽しむのだ。」


 かまなら様は最後に神主へ深々と一礼し、ゆっくりと金色の光に包まれて天へと昇っていった。その姿は神々しく、どこか夢幻的だった。人々は息を呑んでその光景を見つめていたが、やがて光が消え去り、静寂が境内を包み込む。しばらくの間、誰もがその余韻に浸っていた。


 やがて一人が拍手を始めると、それが次第に広がり、やがて境内全体に歓声と拍手が巻き起こった。俺はその光景を眺めながら、大きく息をついた。胸の中には、この祭りと街の平和を守れたことへの安堵がじんわりと広がっていく。

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