俺は今、CDを買える

白川津 中々

◾️

昔、CDを買えなかった。


家の経済的な理由によりコンポもラジカセもなかったため、音楽といえばもっぱらテレビで聴くものだった。友達がポータブルCDプレイヤーなる機材を持ち始めたのを見て随分と羨ましく思った事もある。好きな曲を好きな時に聴ける。それは贅沢であり、俺には縁遠いものだった。


しかし今、俺は働いている。自由に使える金がある。CDを買えるのだ。


仕事終わり、気紛れに立ち寄ったショッピングモールで見つけたレコードショップ。俺はかつての侘しさを思い出し、過去を払拭したい衝動に駆られ入店。すると、ずらりと並ぶ楽曲作品が収録された商品群に、かつてない高揚感が腹底から湧き出してきた。

文明の進歩によりサブスクリプションで音楽データを手軽に手に入れられるようになった。だが俺が欲しいのはCDである。憧れていた、あの薄いビニールで梱包された四角いプラスチックのカバー。音楽性を感じさせるジャケット。持ち上げた瞬間に感じる重み。手にできなかった、あの頃好きだったミュージシャンの作品を、今は買える。この事実が人生を薔薇色に変える。俺は死ぬほど聴きたいと思っていたthee michelle gun elephantのSABRINA NO HEAVENを手に取ってレジへ進み、購入。支払いは電子決済。薄く黄色いビニール袋に入れられて渡されたCD。これもまた、憧れだった。


「ありがとうございます」


店員に頭を下げて退店。レジに立つ彼は笑顔だった。それも嬉しい。

小さな持ち手に指を通し、その足で家電量販店に向かう。でかいオーディオを買ってやると決めたのだ。俺は自然と先程購入したアルバムに収録されている楽曲、ミッドナイト・クラクション・ベイビーを口ずさんでいた。周りの目や体裁などどうでもよかった。この夜、手にしたmichelleのCDが、俺の全てになっていた。


音楽が聴ける。

それだけで、満ち足りる。






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