寿命サブスク
ちびまるフォイ
寿命サブスクによる適正値の到達
「はあ……不思議だ。なぜかお金がなくなる……」
自分の通帳残高を確かめながらため息がでる。
こんなにも毎日節約しているのに貯金は進まない。
銀行口座の底に穴でも空いてるんじゃないか。
「いっそ、無人島にでもいって
本当にお金を使わない生活でも……」
覚悟を決めて、徒歩で行ける範囲の無人島を検索したとき
自分の人生の打開策は別の方法で見つかった。
「寿命……サブスク?」
長ったらしい利用規約と説明書を縦書きで読み飛ばして契約を押す。
さっそく今月分の「サブスク金」が付与された。
「1ヶ月、寿命1年を支払うだけでこんなに毎月お金もらえるのかよ!?」
これだけの金額を稼ぐにはどれだけ働く必要があるのか。
必死に働きすぎて寿命1年分以上削られる気さえある。
それがこの寿命サブスクであれば。
お金を払ってサブスクに入るのではなく、
寿命を払ってお金やサービスを受けられるサブスクとなる。
「どうせ寿命なんて、後半は縁側でお茶すすってるだけだ。
お金を使えるときにたくさん使ったほうがいいに決まってる!」
寿命サブスクにより自分の人生のグレードは一気に向上した。
これまでは電車代をケチって徒歩ばかりだったはずが、
徒歩5分の距離であってもタクシーを使う羽振りの良さ。
「お客さん、これなら歩いたほうが早いですよ」
「フッ。汗をかきたくないのさ」
お金はわかりやすく自分の人生の幸福度を引き上げてくれる。
ガマン、節約、節制。
常に自分を押し殺してきた人生だった。
寿命サブスクで定額のお金が手に入るようになると
今まで抑えていた欲求を解き放つことができる。
「こんなに買いたい放題! 食べたい放題! 遊びたい放題!
寿命サブスクに入ってよかったーー!!!」
宝くじの当選するまでこんな生活は手に入らないと思っていた。
今は宝くじよりもこっちの方が良い。
一度当選して大きなお金を入ったとしてもそれを切り崩す不安がある。
でもサブスクなら毎月もらえるのでその心配もない。ああ最高。
ハッピーライフを満喫していると、郵便受けに金色の封筒が差し込まれていた。
「なになに……『寿命サブスクPremium』の紹介……!?」
それは寿命サブスク会員のうち、長く続けている有料会員向けのお知らせ。
さらにグレードを引き上げた会員になれるという招待状。
もちろん入る以外の選択肢はない。
「月に支払う寿命はぐっと増えるけど、
もらえる金額も得られるサービスもこっちのが断然いい!」
さっそくPremium会員になる。もらえるお金がドンと増えた。
それだけでも人生は充実するのに、追加サービスもある。
どこへ行くにも運転手つきの車がつく。
自分だけのプライベート別荘も提供される。
望めばいくらでも異性との出会いをセッティング。
そしてなぜか豪華な葬式のサービス。
自分以外の葬式もグレードアップしてくれるらしい。使うのかこれ。
たしかに最近葬式をよく見るようにはなったが。
「寿命サブスク最高! 欲しいものはすべて手に入ったぜ!!」
サービスの一つである宇宙旅行に行きながら
次はありあまるお金で何をしようかと夢を見た。
ある日のこと。今日もリムジンで貸し切りのコンビニへ向かう途中。
「あれ……あいつは……?」
窓の外にかつての同級生の姿を見た。
あわてて車を降りて確かめに行く。間違いない。
「山田……だよな?」
「お前は……?」
「同級生の〇〇だよ。お前、こんなところで何やってるんだ?」
「なにって……見てわかるだろ。ホームレスだよ」
ボロボロの段ボールと、申し訳程度の毛布。
キャッシュレスのあおりを受けて、からっぽのままのお賽銭茶碗。
「学生時代はあんなに起業するとか言ってたじゃないか」
「それが失敗してこのザマさ……。はあ、なんで生きているんだろ……」
寿命はあるのにお金がない。
そんなかつての同級生を見て解決策がひとつ浮かんだ。
「なあ、寿命サブスクって知ってるか?」
「サブスク? そんなの支払う金あるわけないだろ」
「逆だよ。お金をもらうサブスクなんだ。その代わり寿命を支払う」
「なんだって!? そんな美味しい話が!?」
「ああ。ホームレス生活からも解放されるよ、入るか?」
「もちろん! ああでも……スマホなんて無いんだ」
「大丈夫。俺が変わりに登録してあげるよ」
「本当か!? ああ、神様!!」
寿命サブスクのページを開き、新規会員登録のボタンを押した。
赤い文字が表示される。
< ただいま新規会員登録はできません。 >
「はぁ!?」
「おいどうしたんだよ。早く会員登録してくれよ」
「いやなんかできないって……」
「そんな……金がないと明日にも死んじゃうぞ!」
「わかってる。ちょっと問い合わせる」
しかし電話をかけても、メールを送っても、結果は同じ。
会員登録はできないの一点張りだった。
「くそ。これじゃラチがあかない。ちょっと行ってくる」
「行ってくるってどこへ?」
「寿命サブスクのおおもとにだよ!」
車をすっとばして、サイトに乗っている住所へと向かった。
大きな会社にたどり着くとすぐに社長の元へ。
「おや。これは寿命サブスクPremium会員の〇〇さん」
「俺のことを知ってるのか?」
「もちろん、弊社のサービスをご愛顧しているお客様は
最後まで大事にするのが私どもの心意気ですから」
「それよりも聞きたいことがある!」
「なんでしょう」
「なんで新規会員登録ができないんだ!
寿命サブスクに友達を登録したいのに!!」
「ああ、もうその数ですか」
「これ以上、会員を増やすだけの金を払えないとかか?
それなら俺がPremiumから普通のに戻す。
そうすれば金も工面できるはずだろう!?」
「いえいえ。そういう問題ではございません」
「じゃあなんで新規会員を受け付けてないんだよ!!」
「これ以上減らしてしまうと、最適数ではなくなるからです」
「減らす……? 会員を増やせって言ってるんだよ!」
そう聞かれた寿命サブスクの社長は、変わらない笑顔で答えた。
「寿命サブスクによる人口の間引きは成功しています。
これ以上会員を増やしてしまうと、人口が減りすぎる。
適正な数に抑えるため会員登録をお断りしてるんですよ」
寿命サブスク ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます