俺と犬と黒い骨

一陽吉

犬と遊んでると

「そ~れ、取ってこい」


「ワンワン!」


 二十センチくらいの長さをした子竜こりゅうの骨を投げると、シロが元気よく走り出していった。


 快晴の空の下、誰もいないだだっ広い草原で愛犬と遊んでいられるのは最高だ。


 なにせ、世界を恐怖のどん底に突き落とした魔王も討たれ、残党魔族との紛争なんかはあっても、多くの一般市民的には平和そのもの。


 とても良いことだ。


 これがいつまでも続いてくれるといいな。


「ワンワン!」


 お、シロが骨をくわえて戻ってきた。


 て。


 え、黒!?


 シロのやつ、子竜の白い骨じゃなくて、なんか黒い骨をくわえてきた。


 うわあ、なんだこりゃ。


 手にとってみるとこの黒い骨、うっすらと黒いもやみたいのがかかってる。


 めちゃくちゃ気味悪いな。


「ワンワン!」


 なんかすごいの見つけたっすよご主人、みたいなかんじでシロは嬉しそうに尻尾を振っているが、絶対いいものじゃねえよ。


 うん?


 骨の靄が広がって一メートルくらいの大きさになると、目のように赤くて小さい二つの光が現れた。


『くっくっくっ。これを手にしたな、人間』


 お、中年男声の念話で話してきたぞ。


 そんじゃこっちも声に魔力をのせて話すか。


「ああ、たしかに手にしたんだが、お前さんは何者なんだ?」


『我か、我は魔王ザルガート』


「魔王ザルガート? いや、そんなはずねえな。だって四十五年ほどまえ、勇者によって討ち倒されたはずだぜ」


『たしかに、我は勇者ヤシュクによって討たれた。だが、我は死の間際に骨の一部を外部へ放ち、復活の機会を待っていたのだ』


「へえ、そうなんだ。それじゃあその放たれた骨がこれなんだ」


『そのとおり。そして、ここまで力を取り戻したいまなら人間の身体をのっとり受肉できる』


「?」


『運が悪かったな、小僧。その身体、我がもらい受ける!』


「ああ。それ、無理だ」


『は?』


「だって、俺も勇者の端くれだからな」


『なに!?』


「お前さんを討った勇者ヤシュクてのは俺の祖父じいちゃんで、その娘の聖魔女せいまじょユジュヌと光剣士こうけんしジークフリードとの間に生まれたのが俺だ。もっと言えば神格を得た異世界転生者でもある」


『……』


「つまり、いまのお前さんは俺から勇者って肩書を抜きにしても、簡単に倒される存在ってわけだ」


『……』


「考えてもみろよ。こんなの、普通なら触った瞬間に身体をのっ取られちまうだろう? そうならねえってことは、お前さんより俺の力の方が上だって証拠さ」


『なるほど……。たしかに、貴様の言うとおりだな。ならば止むを得ん。この犬っころに──』


「ああ、それも無理だ。何せそいつは神獣だからな」


『あ、あ!?』


「見た目こそ小犬だが、そいつはシルバー・ロード・ドッグ。れっきとした神の一員なんだ。こんな骨状態の魔王なんて簡単に倒せるぜ」


『ぬ、ぬぬぬ……』


「というわけでお前さんはどうやっても復活できねえってわけだ」


『おのれ、小僧!』


「自爆なんかさせねえよ。聖砕せいさい


 ──母ちゃんよりの魔法で黒い骨も靄も聖なる光の粒になって消えていった。


 やれやれ。


 一日のんびりと過ごしたかったが一仕事しちまったぜ。


「なんか興ざめしちまったし、帰るかシロ」


「ワンワン!」 


 しっかし、いつ見ても無駄にでけえよな。


 俺が統治する元魔王城。

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俺と犬と黒い骨 一陽吉 @ninomae_youkich

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