第2話 或る日の印獣戦2

「あっ、フレア! ダメだ!」


 リリータが失敗を悟ったようなことを言う。


 私は一瞬、ほんの一瞬だが集中により意識が目の前の現実から外れていた。印獣はすでにこちらに視線を戻し、バッカりと口を開いている。


「こりゃ、マズ……」


 印獣の口内がカッと光り、例の閃光が放たれる。私の意識の中で半ば具現化完了したものを急激に方針転換。やっぱ剣じゃなくて……壁。私の手には剛剣崩れの不細工な壁っていうか、なんていうか。ガラス製のでかいアイロン台みたいなものを出現させていた。一直線に向かってくる閃光に対して、斜めに角度をつけてその壁を差し向ける。閃光は吸い込まれるようにガラスに直撃し、光を屈折させることで私には当たらずにすぐ脇の地面に着弾。アスファルトを鑿岩機のように荒々しく削りながら後方へ走り抜けていった。


「あっ……ぶなぁ……」


 ちょっとイラっとしながら、ガラスのアイロン台を消去する。消すのはイメージから抹消すればいい。


「フレア、イラッとしない」


 リリータ、私の心理はすべてお見通しか。


「してない。腹立っただけよ!」


 同じ意味。苦し紛れの抵抗。でも些細な悪態をつくことで私は冷静さを取り戻す。そんなやり取りをする間、印獣に目をやると、すでに次弾装填開始していて、まもなく発射されてしまう。


「バカの一つ覚えみたいに……近づくスキもないじゃない」


 とは言ってみたけど、頭の中には攻略法が構築されていた。私の能力である「水晶体(ガラス)の具現化」はコイツの特殊攻撃には防御相性がいいことはわかった。でも防御特化の壁だと機動力が出せない。しかも防御から転じて攻撃に移るときに、再度別の武器を具現化するというタイムロスが発生する。だったら――


「攻撃あるのみ!」


 再び具現化のイメージ。今度はガラスの槍。しかも、傘のようなクリスマスツリーのような末広がりになっていて、杉の丸太のように太い。具現化完了、これを敵に向かって……投げる!


 印獣はこの槍を撃墜しようとしたか、放った閃光を槍に直撃させるが、槍はこれを後方に放射状に拡散する。狙い通り。槍は閃光を切り裂きながら一直線に飛んでいき、そのまま印獣の口腔に突き刺さる。


「グゴゴォォォ……」


 槍を投げると同時に瞬速で追従していた私は、上記のように印獣が最低限のうめき声をあげた程度の時間で彼に到着。刺さった槍の柄の上に乗らせて頂いた。そして再度ガラスの剛剣を具現化済み。猪突猛進で無策の突撃をしてたらこの時間は作れない。すべて計算済みだ。ふふん、この状況はどうあがいても絶望でしょう?


 私の眼の前に印獣の水晶玉みたいに無機質な目があったが、その水晶玉が生まれて初めて憎しみという感情を帯びたように見えた。それは恐怖と呼ばれるものか。そして、彼の目に映る巨大なガラスの剛剣を振り上げる私自身の姿は、まるで死神のようだと思えた。


β版おわり

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アノニマスの迷宮(β版) マギヒトカ @hitoka_j

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