アノニマスの迷宮(β版)
マギヒトカ
第1話 或る日の印獣戦1
間一髪、アイツの口から吐き出された閃光をかわしたはいいが、アテを失った光芒は市街地の建物を容赦無く破壊する。それが我が身のように痛くて痛くて……ついついその苦痛に顔を歪ませてしまう。なぜならば、毎度毎度口酸っぱく言われているから、「街を壊すな、もっとスマートに事を片付けろ」って。いやそう言われましても。相手の攻撃がもう「避けたら周りがタダじゃ済みませんよ」っていう悪意に満ちているんです。攻撃してきてる時点で――もっと言えば、戦闘が開始している時点で、我が身か街のどっちかは瓦礫になるって確定しているのだ。
「フレア避けて、また余計なこと考えてる!」
焦っているような、日常のような、不可思議な音色の声が耳に飛び込んでくる。注意喚起はありがたいけど、でもその声が聞こえてくるより前に、私の身体は敵の攻撃を捉えて、すでに回避体制に入っていた。ま、避けたら避けたでまた身を切られるように痛いんですけど。
ちなみに、注意喚起+αで、小言を添えてくれたのは、私の相方・リリータ。助手兼弟兼執事みたいなものかな? 背格好も小柄でまさに弟感が全身から醸し出されている。目元にはいろいろ、諸々、のっぴきならない訳があって、VRゴーグルのようなデバイスを装着しているのがチャームポイントだ。さて、彼の詳しいディテールは後々お話しするとして、敵から追撃で放たれた閃光は、華麗に確実にかわし、同時に反撃の択を頭の中で羅列する。
「リリータ、S7でコイツの視線上に誘導して」
「わかった」
敵の姿は犬型。とは言ってもかなりでかい。軽トラックくらいあるかな? コイツも、もうちょいご紹介すると、いわゆる魔獣の類。公式には「印獣(いんじゅう)」って呼ばれている。巨体、怪力、おまけに大きな一つ目。まるで水晶玉。なんでそんなものと戦ってるのかっていうのは……まあ、これももう少し落ち着いてから話すわ。
「視線、ズレたよ。喉元空いた」
「OK、意図把握サンキュ」
なるべく端的に答える。お礼も忘れない。刹那、私の中に刻まれたキーワードに意識の中でアクセスする。それは簡単に辿り着き、言霊を取り出し、それを具現化できる。この能力は広域に「タグ」と呼ばれている。タグの中でも様々な力を発動させるものがあって、私が持っている能力は、ガラスを様々な形で呼び出せる。時に剣、時に槍、時に壁、と。
さて、言霊を取り出したら次は具現化。どういう形で、どういうマテリアルなのかをイメージする。頭の中に絵を浮かべるよりも、もっともっと具体的に、強く。描いたのは剣。あの大きな体躯を貫き、引き裂くだけの剛剣を作り出す。ここまでの作業にはかなりの集中力を要し、脳神経が高速で伝達を繰り返し頭の中で詳細に、細部まで絵を創り上げていく。脳が熱くなっているのが自分でもわかるほど膨大な情報が処理される。もう少しで……と言ってもこの間コンマ何秒か、間も無くこの手に現物を呼び出せる。しかし――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます