第2話「魔王、再会にて」
帰路も段々冷え込んで来たな……
もうそろそろ9月、秋だし当然か。
「──ッ! 陛下!!」
「え?……」
後ろから猛々しい女性の声が聞こえた。
振り向いて見るとビジネススーツに身を包んだ会社員の女性が俺を見ていた。
……誰? 陛下って、え?
身に覚えがない、今の時代にそもそも知り合いは居ないのだ。
こんなただのOLに話しかけられることは、何もしていないぞ。
スルーしようか……うん、それがいい、新手の詐欺かもしれない。
「え? ちょっと陛下!? 私です! イリアオールでございます!」
「え? イリアオール!?」
イリアオールだと!? それは俺の部下だった四天王の一人だ。冷静でボードゲームに強くて勝てた覚えがない。
眼の前の女性はイリアオールにしては血色が良いし、メガネ掛けてるし、騎士にしては引き締まっていない身体だし……え、本当にこの人同じ人?
「はい! 陛下の忠実なる四天王が一人、
跪いちゃったよ……これは、本当にイリアオールだと考えたほうが妥当な気もしてきた……
「ほんとに、その、え? イリアオールなのか? その……随分と血色いいし……え?」
「それは……今の私は生きた肉体にあるからにございます!」
生きてる……イリアオールが生きた肉体に、おめでとうと言いたいがまずは何よりも言いたいことがある。
「その、どうやって現代に来たの?」
「はい! 輪廻転生の果てに現代では人間の肉体でOLをしております。」
「あーそうなんだ……輪廻転生ってラノベだけじゃなかったんだ……」
「ラノ……何かは私も存じませんがその通りにございます、陛下は今何を?」
「いや普通にアルバイトとかしながらアパートで暮らしているけど」
それを言った途端イリアオールの周辺空気が一変した。
「アルバ……フリーターということですか!?」
「え……うん」
「陛下ほどの御方がフリーターをするしか無いなんて! 人族め! 陛下の素晴らしさを理解できぬ下等種族どもが! やはり今からでも根絶やしに──」
「ちょっと待てぇ!!!」
今にも駆け出しそうなイリアオールの手を掴んだ。
「待て待て待て」
「陛下、お離しください、やはり人族は滅ぼすべきです」
「いや違う違う! 就職に失敗してフリーターしか無かったとかじゃなくて! 俺がやりたくてやってるの!」
「といいますと……つまり陛下は自身のご意思でやっているだけで虐げられた果てにフリーターしか選択肢が無かったわけではないと」
「そうそう!」
俺の言葉でようやっと怒りが収まったイリアオールは再び跪いた。
「早とちりでとんだ無礼を働いてしまいました、誠に申し訳ないございません」
「いや別にそこまでせんでも……」
「いえ、陛下のご意思を踏みにじったことに変わりはございません、どうかこのイリアオールに罰を……」
「えぇー……」
困った、これは本当にイリアオールだ。
些細なことでも深刻に受け止めて謝罪してくる様、あの頃に散々困った覚えがある。
こうなった彼女は意地でも罰を受けるまで動かなくなるんだよなぁ……
仕方ない、かくなる上は……
「わかった」
「はい」
「これよりイリアオール、貴様に罰を与える」
「はっ……」
ペシッ
「──??」
「よし、これで罰は終わりだ」
「ちょ、お待ち下さい陛下! これは罰などでは」
「いや、これが現代式の罰だ」
「ですがこれは……ただのデコピンでございます!!」
そのとおり、ただのデコピンだ。
それ以上でも以下でもない。それぐらいしか思い浮かばいからだ。
「だったら駄目なのか?」
「いえ……ですがこれは罰というにはあまりにも
「いや罰だ、それともオマエは俺の決定に意を唱えるか?」
イリアオールはあの頃もよく罰を要求して来た。
もはやドMではないかと思うほどに毎度のごとく厳しい罰を所望してきた。
馬引き、水責め、鞭打ちetc……拷問レベルを真剣に所望してくる。
しかもあの頃から『一回受けた罰では意味がございません』と言って毎回違う罰を所望するせいで逆にこっちがネタ切れで困る羽目になるぐらいだ。
ある意味、ドMなのは本当なのかもしれないが現代でまでそのレベルを所望されると、流石にもう勝手にSMクラブにでも行ってきてくれと思う。
「いえ、決して意を唱えるつもりではございません」
「よし、それでは罰はこれで終わりだ」
「いえ……」
──ん?
「私は今、陛下の決定を否定しようとしてしまいました、それに対する罰がま──」
「もういいよ!! 許すよ恩赦出すよ! 現代でまであの頃レベルやろうとしたら俺が捕まるわ!!」
もはや俺が拷問を受けてると言ってやりたいが、そう言うとまた『そう思わせてしまった私に罰を』と言いかねない為言えない。
あの頃の仲間に会えたのは嬉しいが一波乱起きそうでなにか怖い。
魔王様、日常系で生きていたい。 神無月《カミナキツキ》 @kaminakituki
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