第12話 幼馴染みの事情・4
あれは、半年前。
コウくんと咲夜ちゃんが春休みに行った家族旅行。
そこで起こった悪夢のような惨事。あれ以来――。
多分、コウくんは心が壊れてしまったんだと思う。
あまりに過酷な現実を直視することに耐えられず、彼は自分を取り巻く世界の一部に対する認識を改変してしまった。
わたしは――そんな彼に、わたしは何と言ったらいいのだろう?
いっそ、こう言うべきなのだろうか?
「コウくん、いい加減に目を覚まして。あの時の事故で――あの家族旅行の交通事故で、おじさまもおばさまも――咲夜ちゃんも、みんな死んじゃったんだよ。コウくんだけが奇跡的に助かって……。だから、もう止めよう? いつまでも『見えない妹』とひとりで会話したり、こんな妄想の家族ごっこ続けるの……もう止めよう? こんなの、見てて辛すぎるよ……」
わたしは、ずっとそう吐き出したかった。
それはわたしの本心だから。でも、ダメだ……。
だって、今のコウくんは幸せそうだから。
以前と変わらない調子で『妹』としゃべっている彼の姿を見てると、わたしは何も言えなくなってしまう。
残酷な《真実》はいつだって、わたしのちっぽけな勇気を容易く挫いてしまう。
静かな狂気に浸るコウくんは、それでも家族に関すること以外は、以前とまったく変わらない。理知的で優しい、わたしの憧れの幼馴染みだ。
だから、臆病なわたしは。
今日も笑顔の仮面で、嘘つきの道化を演じ続けるのだろう。
(了)
愚者の月 @mayclub
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます