第11話 幼馴染みの事情・3
「あの、白雪姫が王子様のキスで目を覚ますって、アレな……ぶっちゃけディズニーが世界に広めた改変版だかんな」
コウくんが『白雪姫』についての蘊蓄を語っている。
もともとわたしが切り出した話題で、うちのクラスでやる文化祭の出し物の演目だ。
拗ねて知らんぷりしていたわたしは、思わず彼の話に惹き込まれる。
アンデルセンの創作童話とは違って、ペローやグリムやバジーレの童話集は、民間伝承の昔話を集めて編纂したものだから、話の原型は同じでも、編者によってヴァリエーションが大きく異なる場合があるらしい。よく知っているつもりだった有名童話についてのトリビアに、夢中になって聞き入っていたわたしは……
「う、うるせぇな、オマエには言ってねえだろ。余計な口出ししてんじゃ――」
コウくんの言葉に、凍りついたように固まった。
それは、いきなり乱暴な言葉を投げつけられたからじゃない。
否。それは明らかに、わたしに向けられた言葉じゃなかった。だって……
「いやっ、だから誰もンなこと言ってねえだろーが! どんだけオレを貶めてえんだよ、オマエはっ」
彼は後ろを振り向いて、
「ザケんな、ゴルァァッッ! 人生最大の侮辱だわ! 言っていいことと悪いことの区別もつかねえのか、このバカ妹がっ」
わたしじゃない『他の誰か』に向かって、しゃべっているのだから。
こんな時、わたしはどうしていいかわからなくなる。
わたしは、何を言うべきだろうか?
目の前の彼に向かって、何と声を掛けてあげればよいのだろう――。
彼はいつものように『見えない妹』との会話劇を繰り広げている。
誰もいない無人の空間に向かって、ひとりでしゃべり続けている。
わたしは――どうしたらいい?
ただいつものように曖昧な笑みを浮かべて。
無言のまま、茫然と立ち尽くすだけだ。
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