第3話 その探偵はコーヒーの香り

 女の子を救った二人は依頼して来た先生へ連絡をし、無事女子生徒は親御さんの元へと戻った。


「ありがとうございました」

「いやいや、この名探偵の手にかかればこの位の事件朝飯前ですよ」

「でも不思議ですね、あの子が行方不明になっていた時の記憶が無いなんて」

「何かのショックで一時的に記憶がこんがらがっているんでしょう。 また困った事があったらこの名探偵大林 邦彦おおばやし くにひこまでどうぞ」


 度々お礼を言われて先生は帰って行った。


「ふう……一件落着だな……」

「ええ、そうですね」

「……しかし……、この状況なんとかならないのか?」

「繁盛するのは良い事ですよ」

「そうだが……目線が痛いんだよ……」

「そうですか? 私は化かしがいがありますよ」

「まったく……、……それじゃ俺も商売させてもらうかな」


 探偵はお客に名刺を配り始めた。


「なにこのおじさん?」

「店員さーん! 不審者がいますー!」

「すいません、今片付けますね」

「「キャー!」」


 手を振ると黄色い声が大きくなる。


「まったく、それはやめて下さいと言いましたよね?」

「まあ良いじゃねえか、繁盛してんだしよ。 それにしてもまさかお前が連れて帰って来るとはな」

「あのままにはしておけませんからね。 人を呼び込んでくれればウチも繁盛しますし」


 レジカウンターには白い招き猫が置かれている。

 そしてうっすらと猫の形をしたモヤがレジの横で丸くなって眠っている。


「さてと……、おーい【はく】コーヒーをテイクアウトで」

「わかりました。 いつものブラックでいいですか?」

「ああ」

「そうそう、いつものも忘れずにお願いしますよー」

「わかってるって!」


 カフェを出てタバコを一服……、そしてコーヒーを一杯……。


「ぷふぅ〜……うめえな……、……よし、依頼者でも探しに行くか……」


 年季の入った車に乗り込みキーを回す。

 エンジンが動き車が小刻みに揺れる。


「良い調子だ」


 タバコの火を消し、探偵の車は駐車場から出る。


 そして数刻……。


「お〜いはく!」

「あれ? また来たんですか? 依頼者は見つかりました?」

「そんな事は良いんだ。 あ、あとこれな」

「おお、ありがとうございます」

「ほんと、どうしてお狐様ってのは油揚げなんか好きなんだろうねえ」

「なんでしょうね、昔の名残みたいな物ですよ。 それに私は本物の油揚げにしか興味無いですから」

「そんなもんか……、と、それどころじゃ無かった」

「また何かありました?」

「いやー、依頼者探していたら車の駐禁取られちまってさ……、……金貸してくんない?」

「……またですか? 仕方ない人ですね……」

「ちゃんと返すからさ」

「良いですよ返さなくて」

「おっと、化かすのは無しだぜ」

「あ、バレました?」

「長い付き合いだからな」

「仕方ない……、今取ってきますから待ってて下さい」


 店の奥からお金を持って戻って来ると、探偵と一緒に車に乗り込んだ。


「お、おい、お前も来るのかよ?」

「私がいた方が依頼が入ると思いますよ」

「お前といると変な依頼ばっかりになるんだよ」

「良いじゃないですか。 依頼は依頼ですし」

「ったくしょうがねーなー。 その耳と尻尾はしまっとけよ」

「おっといけない。 あ、そうそうこの子も一緒ですよ」


 探偵はよく見るとモヤモヤした猫が車の中を走り回っている。


「おい、なんでこの猫も一緒なんだ?」

「勝手について来ちゃいまして」

「ま、いいか……よし、行くか」

「ええ」

「ニャー」



 私はどうやら行方不明になっていたようなんです。

 それを助けてくれたのは変な探偵さんとカッコいいけど耳と尻尾が生えてる不思議な人。

 色々聞かれた時、説明が大変になるので記憶がこんがらがって覚えていない事にしようと探偵さんに言われて聞かれても覚えていないと返事をした。

 でも私は本当は覚えている。

 その二人は不思議とコーヒーの香りがする。


 そして私が一つ上の学年に上がった時、そのコーヒーの香りがする探偵さんと出会う事になる……。

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その探偵はコーヒーの香り かなちょろ @kanatyoro

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